四万十川ウルトラマラソン参加者の追跡調査で行動変化を実証
【ポイント】
1.
四万十川ウルトラマラソンの初参加者122人を対象に、1.参加前、2.参加2~3週間後、3.参加4~
5週間後の3時点で追跡した結果、リサイクルや節電など実際の環境配慮行動に有意な増加を確認。
2.
特に、参加前の環境への意識(環境配慮意図)が低かった参加者ほど参加後の行動変化が大きく、
自然資源を活用したスポーツイベントが、参加者の価値観や日常行動の変容を促す可能性を示唆。
3.
マイカップ持参や分別回収の徹底など、自然環境への理解を深める運営や情報発信と組み合わせることでイベントを通じた行動変容をさらに高められる可能性があり、スポーツツーリズム政策などへの応用も期待。
四万十川ウルトラマラソン(実行委員会提供)
【概要説明】
 東洋大学の山下玲准教授、高知工科大学の前田和範講師、早稲田大学の高田紘佑助教(※旧所属)による研究グループは、自然環境下で開催されるスポーツイベントへの参加が、参加者の日常的な環境配慮行動(Pro-environmental behavior)*1に与える影響を明らかにしました。対象は、四万十川ウルトラマラソンに初参加したランナー122人です。従来研究では、単一時点での調査が多く、イベントを通じた行動変化まで十分に検証されていないため、本研究では、1.参加前、2.参加2~3週間後、3.参加4~5週間後の3つのタイミングで追跡調査を行い、その結果、参加後に環境配慮行動が有意に増加しました(つまり、イベント参加後しばらくしてからも環境に配慮した行動が持続)。特に、参加前の環境配慮意図が低かった人ほど、その後の行動の伸びが大きいことが示されました。
 本研究は、自然を活用したスポーツイベントが、観光や地域振興の機会にとどまらず、参加者のその後の生活行動にも影響しうることを示した点に特徴があります。論文は、国際的に高い評価を受ける学術誌 Journal of Sustainable Tourism (Impact Factor=7.8)に掲載されました。本研究は、観光分野だけでなく、持続可能なスポーツイベントのあり方を考えるうえでも役立つ成果です。
【研究内容と成果】
 近年、トレイルランニングやウルトラマラソンのような自然の中で実施されるスポーツイベントが、観光や地域振興の観点から注目を集めています。その一方で、こうしたイベントは自然環境に依拠して成立しているため、参加者の環境意識や環境配慮行動を高める契機となりうるのかが重要な研究課題となっていました。しかし、従来研究の多くは単一時点の調査にとどまっており、イベント参加が実際の行動変化にまでつながるかについては、十分に検証されていませんでした。
 本研究では、こうした行動変化の背景を説明する理論として、保護動機理論(Protection Motivation Theory)*2を用いました。これは、人がある問題をどの程度脅威として認識するか、また、自分がそれに対処できるとどの程度感じているかが、行動に影響するという考え方です。本研究では、その理論に基づき、「自然や地球環境を大切にしたいという価値観を示す生物圏価値(Biospheric Value)*3」と、「自分は環境保全のために行動できるという環境自己効力感(Environmental self-efficacy)*4」が、環境配慮意図や実際の行動変化にどのように関わるかを検証しました。
 調査は質問紙調査にて、2024年10月20日に開催された第30回四万十川ウルトラマラソンの100kmの部に初参加したランナーを対象に、参加前(T1)、参加1~2週間後(T2)、参加4~5週間後(T3)の3時点で実施されました。調査案内は1,500人に配布され、最終的に3時点すべてに回答した初参加者122人のデータを分析対象としました。対象者の平均年齢は46.4歳、男性が80.3%を占めていました。
 分析の結果、日常生活における環境配慮行動は、参加前から参加2~3週間後、参加4~5週間後にかけて有意に増加していました。つまり、イベント参加後しばらくしてからも、環境に配慮した行動の増加が確認されました。さらに分析を進めると、自然や地球環境を大切にしたいという価値観や、自分にも環境のためにできることがあるという感覚が、環境配慮意図を高める要因になっていることが確認されました。 そのうえで、本研究で特に重要だったのは参加前の環境配慮意図がそれほど高くなかった人ほど、参加後に環境配慮行動がより大きく伸びていた点です。もともと環境配慮意図が高い人は、参加前の時点ですでに日常生活の中で環境配慮行動を多く実践していましたが、今回のイベントは、そうした人だけでなく、これまで環境問題への関心が相対的に低かった人にとっても、行動を見直すきっかけになった可能性があります(図1)。
図1:分析結果のまとめ
 
 本研究の意義は、単に「環境に関心の高い人が参加していた」という説明にとどまらず、同一参加者を時系列で追跡することによって、「参加前から参加後にかけて、実際の行動がどのように変化したか」を実証的に示した点にあります。また、保護動機理論を用いて、その変化の背景にある心理的要因もあわせて明らかにした点に、学術的な新規性があります。自然資源を活用したスポーツイベントが、人々の環境に対する意識や行動を変え、地域の持続可能性に資する実践的な機会となりうることを具体的なデータに基づいて示しました。
【今後の展開】 
 本研究成果は、自然資源を活用したスポーツイベントを単なる集客や観光消費の場としてではなく、参加者の価値観や日常行動に働きかける「持続可能性の重要性を伝える機会」として設計する重要性を示しています。たとえば、マイカップ持参の促進、分別回収の徹底、地域の環境保全団体との連携、自然環境への理解を深める情報発信などを組み合わせることで、イベントを通じた行動変容をさらに高められる可能性があります。
 また、本研究の知見は、地域の自然資源を活かしたスポーツツーリズム政策や、自治体、観光事業者、イベント主催者、スポンサー企業の連携にも応用が期待されます。特に四万十川のような豊かな自然環境を有する地域においては、イベント自体の魅力向上に加え、参加者を通じた環境配慮の波及という新たな社会的価値の創出につながる可能性があります。
 今後は、自己申告による行動評価に加えて、寄付行動や環境保全活動への参加など、より多面的な行動指標を用いた検証が求められます。また、なぜ行動変化が生じたのかをより深く理解するために、インタビューなどの質的調査を組み合わせた研究の展開も期待されます。
【用語解説】
*1)環境配慮行動(Pro-environmental behavior)
ごみ分別、リサイクル、省エネルギーなど、環境負荷を減らすために日常生活で行う行動のこと
 
*2)保護動機理論(Protection Motivation Theory)
人が問題を脅威としてどのように受け止めるか、また自分がそれに対処できるとどの程度感じるかに. よって、行動の意図や実際の行動が左右されると考える理論。
 
*3)生物圏価値(Biospheric value)
自然や生態系、地球環境そのものを大切にしたいと考える価値観。環境問題を自分にとって重要なものとして捉える基盤となる。
 
*4)環境自己効力感(Environmental self-efficacy)
自分は環境を守るための行動を実行できる、という認識や自信のこと。環境配慮意図を高める心理的要因の一つとされる。
【研究資金】
 本研究は、JSPS科研費(JP22K17701)の一環として実施されました。
【論文情報】
タイトル:From intention to action: a longitudinal study of pro-environmental behavior change through nature-based sporting events
著者:Rei Yamashita, Kazunori Maeda, Kosuke Takata
掲載誌:Journal of Sustainable Tourism
公開日:2026年4月8日
DOI:https://doi.org/10.1080/09669582.2026.2653025
【問い合わせ先】
【研究に関するお問い合わせ先】
東洋大学 健康スポーツ科学部 健康スポーツ科学科 准教授 山下 玲
TEL:03-5924-2860
E-mail:yamashita081@toyo.jp
 
高知工科大学 経済・マネジメント学群 講師 前田 和範
TEL:088-821-7140
E-mail:maeda.kazunori@kochi-tech.ac.jp
 
【広報に関するお問い合わせ先】
東洋大学 総務部 広報課
TEL:03-3945-7571
E-mail:mlkoho@toyo.jp
 
高知工科大学 入試広報部 広報課 
TEL:0887-53-1080  
E-mail:kouhou@ml.kochi-tech.ac.jp
https://prtimes.jp/a/?f=d92723-16-ede116e20879ba23095d62e357f0f797.pdf

日常生活における環境配慮行動は、参加前から参加2~3週間後、参加4~5週間後にかけて有意に増加していました。つまり、イベント参加後しばらくしてからも、環境に配慮した行動の増加が確認されました。