~結晶状態での10ナノメートル成膜を世界で初めて実現~
住友重機械工業株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:渡部敏朗、以下「住友重機械」)と、高知工科大学(高知県香美市、学長:蝶野成臣)の山本哲也総合研究所マテリアルズデザインセンター長らは、共同研究において、住友重機械独自の反応性プラズマ蒸着法(RPD法)(※1)を利用し、酸化亜鉛(ZnO)として世界で初めて膜厚10ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)の結晶状態の透明導電膜をガラス基板上に形成する技術を開発しました。これにより、将来の透明導電膜、バッファ膜・シード膜(※2)として研究が進められるZnO膜を、ガラス基板上に極めて薄く結晶状態で形成する手段として、RPD法の有用性が示されました。
 
RPD装置内の放電写真
 
【背景】
透明導電膜は、太陽電池や有機EL、透明ヒーターなど、「電気も光も通す面」が必要な製品に欠かせない素材です。インジウムスズ酸化物(ITO)やインジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)などの金属酸化物を、ガラスやプラスチックなどの透明な基板上に成膜した状態で用いられます。ZnO透明導電膜は、特に亜鉛の資源量が豊富であることに加え、紫外線を吸収する特性や、高い熱伝導率を有しており、用途に応じた屈曲性の制御が可能であるなどの特長から以前より注目されていました。しかし、従来の材料と比べた成膜時の扱いの難しさから透明導電膜としての実用化は限定的で、多くは企業や大学での研究開発段階にとどまっていました。
 住友重機械は、主に太陽電池、フラットパネルディスプレイ、有機EL分野向けに、ITOやガリウム添加酸化亜鉛(GZO)などの透明導電膜をガラスなどの基板上に成膜する装置を開発・製造しています。RPD法の更なる発展のための基礎的な研究を目的に、山本センター長らとの共同研究を2024年まで行っており、これまでにRPD法によって結晶状態のタングステン添加酸化インジウム(IWO)透明導電膜を5ナノメートルの厚さで成膜する手法などを開発してきました(※3)。今回の成果は2023年から2024年にかけて実施した共同研究の成果であり、住友重機械はRPD装置の改良を担当しました。
 
【今回の研究におけるRPD法の貢献】
ZnOは低温でも結晶化しやすい一方、成膜初期の急激な成長で結晶構造に歪みが発生しやすい素材です。スパッタリングなどの物理気相成長法(PVD)では複数の結晶構造が混ざり合う点や、基板に直接成膜するには 20 ナノメートル以上の膜厚が必要になる点など、極薄膜化時の特性制御が困難でした。
RPD法は、プラズマ状態の金属元素イオンや酸素イオンが基板に衝突する際の勢い(エネルギー)を自在に制御できます。そのエネルギー制御によって単一の結晶構造のみの透明導電膜を実現できます。さらに今回、既存のRPD法成膜装置を研究用に改造し、金属元素イオンや酸素分子イオンの基板衝突エネルギーを一段と精度よく調整できるようにしました。
その結果、ガラス基板上に結晶構造の歪みを緩和した結晶状態のZnO透明導電膜を厚さ10ナノメートルで成膜することに世界で初めて成功しました。
RPD法は「低温・低ダメージ」「大面積・高速成膜」を特徴とするため、例えば、熱に弱い基板への成膜や実用化の際にも適した手法です。
 
【今後の展望】
結晶状態のZnO透明導電膜を精度よく形成できる技術は、将来的にインジウム(In)フリーの透明導電膜や厳しい精度が求められるバッファ膜・シード膜などに活用される可能性があります。また、資源上のリスクを下げる将来技術としても期待されます。今後も住友重機械では、RPD法をはじめとする独自技術の創出や価値向上など、将来にわたって人と社会を優しさで満たす技術の研究開発に取り組んでまいります。
なお、技術上の詳細は、別途、山本センター長らのグループより発表を予定しています。
 
注釈
※1反応性プラズマ蒸着法(RPD: Reactive Plasma Deposition)。プラズマガンから放出される電子を磁場により蒸発材料に導き、加熱により昇華した材料を高密度プラズマ中で活性化させることで高い反応性を持たせた住友重機械社独自の成膜方法です。
 RPD法において、プラス電荷を持つ飛来粒子が加速されるメカニズムは、主に蒸発源であるアノード(陽極)電位から基板に至るまでのプラズマ電位(プラズマポテンシャル)分布によりプラス電荷飛来粒子を押し出す効果と、基板界面に形成されるシース電位との相乗効果を制御する点にあります。この特徴により、高い反応性を維持しつつ基板へのダメージを低く抑えることが可能となり、緻密な薄膜形成、ひいては結晶性の優れた膜の形成を実現できます。
参考:真空成膜装置について
RPD装置内の放電写真
 
※2 用語の解説
バッファ膜:後工程での成膜の下地として形成する膜。ミクロな構造の違いなどから相性の悪い基板と膜の間を取り持つ役割などを持つ
シード膜:直接の成膜が難しい薄膜をうまく成長させるための足場として基板上に形成する膜。
 
※3 「アモルファス金属酸化物薄膜生成技術の確立に寄与」(2023年9月29日公表)