株式会社薫製倶楽部(岡山県都窪郡早島町)は2026年4月21日、自社ウェブサイトに研究解説「我々紅麹業界に何が起こったか」
行政は本当にプベルル酸を同定できているのか その1——小林製薬提出資料より——(科学編)
を公開した。
 

 

▼対象記事URL

 

https://kunsei.com/archives/724

令和8年4月 株式会社薫製倶楽部

 

「我々紅麹業界に何が起こったか」

 

行政は本当にプベルル酸を同定できているのか その1

——小林製薬提出資料より——(科学編)

 

【結論】

 小林製薬は2024年3月28日有識者会議提出資料において、成分Xをプベルル酸と同定したと主張しているが、その科学的根拠は以下の三点において致命的に不十分であり、「同定」の要件を満たしていない。

・  論点① 精製の未確立——同定プロセスの入口が存在しない

・  論点② HPLC純度95.4%——毒性試験の前提条件を満たさない

・  論点③ NMR解析の三重の不備——構造確定の最終証拠が存在しない

 なお、本稿の論旨については、Claude、ChatGPT、Copilot、Gemini、DeepSeekをはじめとする主要AIがすべて矛盾なしと評価している。

1 論点① 精製の未確立——同定プロセスの入口が存在しない

 天然物から特定化合物を同定するプロセスは、科学的に以下の順序が要件とされる。

抽出 → 精製(高純度単離) → 構造解析 → 標準品または合成品との照合

 ところが小林製薬は提出資料P15において、「調査した限り紅麹から精製した報告はなし」と自ら記載している。これは以下の二重の問題を意味する。

第一に、文献値との数値比較による「同定」は、同一の天然物から精製された標準品または化学合成品との照合を前提とする。先行精製報告が存在しない以上、照合の基準自体が存在せず、文献値との「数値の矛盾なし」は「同定」ではなく「否定できない」にとどまる。

第二に、仮に世界で初めて紅麹からプベルル酸の精製に成功したのであれば、それ自体が重大な科学的成果であり、精製方法・収量・確認手順を明記するのが科学的記述の最低要件である。その記載が存在しないことは、精製の確立を意味しない。

 遠藤章先生によるコンパクチンの単離(1976年)、アフラトキシンの構造確定(1963年)、ペニシリンの純粋精製(1940年代)はいずれも「世界初の精製・単離」を明確に主張し、方法・純度・収量を詳細に記載している。小林製薬の資料にはそれがない。

 「精製した報告なし」という自己記載は、同定プロセスの入口が存在しないことの自白に等しい。

2 論点② HPLC純度95.4%——毒性試験の前提条件を満たさない

 小林製薬提出資料P17には、成分XのHPLC純度として95.4%が記載されている。これは4.6%の不純物が存在することを意味する。

 天然物同定および毒性評価において要求される純度基準は以下の通りである。

・NMR構造参考:       90%程度でも参照可

・毒性試験用標準品:     99.0%以上(日本薬局方準拠)

・完全同定の証明:      99%以上が通例

・医薬品標準物質(JP/USP): 99.5%以上

 4.6%の不純物について、その化学的正体は明らかにされていない。この不純物が腎毒性を有する別の化合物である可能性を、95.4%純度の試料を用いた動物実験では排除できない。すなわち「成分Xが腎毒性を示した」という結論は「試験物質が純粋にプベルル酸であること」を前提とするが、その前提が成立していない。

 純度95.4%の試料を用いた動物実験の結果を、プベルル酸単体の毒性として帰属させることは科学的に許容されない。これは同定の不完全性と毒性評価の無効性を同時に示すものである。

3 論点③ NMR解析の三重の不備——構造確定の最終証拠が存在しない

 小林製薬提出資料P16では、1H-NMRおよび13C-NMRのシグナルを文献値と比較することによって構造同定を主張している。しかしこの解析には以下の三つの致命的な不備がある。

【第一の不備】 構造類縁体との鑑別が行われていない

 プベルル酸が属するトロポノイド系化合物には、分子式・分子量が近接した構造類縁体が複数存在する(stipitatic acid、viticolin A〜C等。P19引用のScientific Reports論文にも列挙されている)。これらはNMRの数値が一部近似・重複するため、文献値との数値比較のみによる鑑別は成立しない。

【第二の不備】 測定条件の記載がなく、互変異性体の影響が排除されていない

 トロポノイド系化合物はケト-エノール互変異性を示すことが知られており、測定溶媒・pH・温度によってNMRシグナルのパターンが変化する。提出資料には測定条件の記載が確認できない。測定条件が文献と同一でなければ、数値の「一致」の評価自体が根拠を失う。

【第三の不備】 X線結晶解析が存在しない

 天然物の構造確定において、NMRおよびHRMS(高分解能質量分析)は有力な証拠であっても最終証拠ではない。完全同定の最終証拠はX線結晶解析(単結晶X線構造解析)である。コンパクチン、アフラトキシンの構造確定はいずれもX線結晶解析を経ており、日本薬局方においても新規不純物の同定基準として最終的にX線結晶解析が求められる。小林製薬の有識者会議提出資料にX線結晶解析のデータは存在しない。

 これら三つの不備は独立しており、いずれか一つが解消されても残りが問題として残る。NMR比較のみによる同定主張は、科学的に「完全同定」の要件を満たさない

【参照資料】

 小林製薬 2024年3月28日有識者会議提出資料(P.15〜P.19): https://kunsei.com/archives/721 (薫製倶楽部 誰でも閲覧可)

 

▼【薫製倶楽部プレスリリース・シリーズ】

・  ① 東京科学大学のプベルル酸研究に科学的疑義申立(2026/3/10)

・  ② 2024年紅麹事件、大阪市保健所が収去していないことを確認(2026/3/12)

・  ③ プベルル酸の根拠不明 研究解説1(2026/3/13)

・  ④ プベルル酸の根拠不明 研究解説2(2026/3/16)

・  ⑤ プベルル酸の根拠不明 研究解説3(2026/3/17)

・  ⑥ プベルル酸の使用根拠について主要報道機関10社へ疑義照会(2026/3/18)

・  ⑦ 刑事告発状の提出について(2026/3/19)

・  ⑧ 動物実験を実施したのは小林製薬だった(前編)(2026/3/19)

・  ⑨ 小林製薬の動物実験写真が行政発表資料にそのまま使用されていた(2026/3/19)

・  ⑩ 動物実験を実施したのは小林製薬だった(後編)(2026/3/23)

・  ⑪ 小林製薬公表資料に基づくPK試験データの整理(2026/3/24)

・  ⑫ 国立医薬品食品衛生研究所長を刑事告発(2026/3/25)

・  ⑬ コカ・コーラが示す食薬区分の本質 研究解説10(2026/3/27)

・  ⑭ 厚労省健康・生活衛生局長を刑事告発(2026/3/30)

・  ⑮ 決定的証拠 小林製薬の標準品で小林製薬の検体を試験した(2026/3/31)

・  ⑯ 収去記録の特定に60日——存在しないから探せない(2026/4/1)

・  ⑰ 大阪市保健所は最大の被害者である(2026/4/2)

・  ⑱ 収去なき断定の全体像(2026/4/3)

・  ⑲ 小林製薬紅麹コレステヘルプa(G970) 医薬品文献を根拠とした機能性表示食品、消費者庁に行政不服審査請求(2026/4/3)

・  ⑳ 厚生労働省が公文書で判断放棄を確認——米国が2001年に解決した問題を日本は25年後も回避(2026/4/3)

・  ㉑ プベルル酸と誘導された経緯(調査報告1)不完全同定での断定報告(2026/4/6)

・  ㉒ プベルル酸と誘導された経緯(調査報告2)——有識者会議が見逃した理由(2026/4/7)

・  ㉓ 天然物の同定に時間がかかることは科学の常識である(2026/4/8)

・  ㉔ カビの世界と利益相反——吉成文献における研究の独立性と客観性への重大な疑問(2026/4/9)

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・  ㉖ 我々紅麹業界に何が起こったか——誤解を解くのに2年かかった戦い、そして原田さん(2026/4/10)

・  ㉗ 我々紅麹業界に何が起こったか——岡山県と紅麹文化、そして崩壊(2026/4/10)

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