【研究の要旨とポイント】次世代の説明可能AI「拡張型自由エネルギーモデル」にエントロピーの項を導入し、磁性材料における熱ゆらぎのメカニズムを世界で初めて定量的に解明しました。これまで認識困難だったエントロピー増大の起源を、次世代AIによる解析で初めて磁区画像上に特定・可視化することに成功しました。物理・数学・データサイエンスを融合した本アプローチにより、人間が認識できない新しい材料知の発見が可能になり、EV向けモーター材料など幅広い材料開発への応用が期待されます。
次世代の説明可能AI「拡張型自由エネルギーモデル」にエントロピーの項を導入し、磁性材料における熱ゆらぎのメカニズムを世界で初めて定量的に解明しました。
これまで認識困難だったエントロピー増大の起源を、次世代AIによる解析で初めて磁区画像上に特定・可視化することに成功しました。
物理・数学・データサイエンスを融合した本アプローチにより、人間が認識できない新しい材料知の発見が可能になり、EV向けモーター材料など幅広い材料開発への応用が期待されます。
東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科の小嗣 真人教授、増澤 賢氏(2022年度修士課程修了)、筑波大学、岡山大学、京都大学らの研究グループは、次世代の説明可能AI「拡張型自由エネルギーモデル(*1)」を進化させ、新たにエントロピー(*2)の項を加えたモデルを開発しました。
この新モデルを用いることで、磁性材料のエネルギー損失における熱ゆらぎのメカニズムを定量解析することに成功しました。さらに、エントロピー増大の起源を顕微鏡画像上に直接可視化することにも成功しました。
電気自動車(EV)のモーターでは、エネルギー損失(鉄損)における熱的な散逸が重要な課題となっています。本研究で提案した次世代AIを用いた解析により、温度が上がるほど磁区構造(*3)が複雑化し、エネルギー損失の一因となることを明らかにしました。さらに熱ゆらぎによるエントロピーの局所的な増大を可視化することに成功しました。この成果は省エネルギーな次世代磁性材料の設計指針を与えるものであり、本モデルの有用性を示す結果といえます。
本モデルは、人間が認識困難だった隠れた材料知を可視化するAI手法です。自由エネルギーの汎用性を活用し、半導体や電池材料など幅広い材料開発への展開も期待されます。
本研究成果は、2026年2月11日に国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。
EVモーターに使われる磁性材料では、「鉄損」と呼ばれるエネルギー損失が生じ、その多くが熱として失われます。この損失はモーター全体の約31%を占めるため、省エネルギー型EVを実現する上で、重要な課題となっています。
磁性材料では、磁気の向きが揃った微細な組織「磁区構造」が、外部磁場や温度に応じて変化し、その際に鉄損が発生します。特に温度が高くなると、「迷路状磁区構造」という、複雑にゆらいだパターンを形成することが知られています。
しかしこれまで、温度変化が磁区構造のゆらぎとエネルギー損失の増大にどのように影響するのか、そのメカニズムを解析する手法は十分に整っていませんでした。
本研究グループはこれまでに、数学のトポロジーと熱力学の自由エネルギーを融合した説明可能AI「拡張型自由エネルギーモデル」を開発し、材料機能の解析技術を蓄積してきました。しかし従来のモデルでは、一定の温度条件下での解析にとどまっており、熱ゆらぎを定量的に扱うことが、実用面での大きな課題でした。
そこで今回、従来モデルに「エントロピー(熱による乱雑さの度合い)」の項を新たに加えることで、温度上昇にともなう磁区構造のゆらぎとエネルギー損失増大のメカニズム解明に挑みました。
本研究では、迷路状磁区構造が明確に観察できるモデル材料として、希土類鉄ガーネット(RIG)を用いました。磁気光学顕微鏡を用いて0℃から80℃の5段階の温度条件のもと、外部磁場を変化させながら磁化反転の過程を自動的に撮影し、合計で2,000枚のデータを取得しました。構造解析には、数学のトポロジーの概念である「パーシステントホモロジー(*4)」を活用し、磁区構造の複雑性を定量的な特徴量として抽出しました。エネルギー解析では、従来モデルの静磁エネルギー・交換エネルギーに加え、新たにエントロピーの項を導入し、自由エネルギーを解析しました。
これら特徴量と3つのエネルギーをデータ空間で統合し、新たな自由エネルギーランドスケープを構築しました。これにより、これまで困難とされていたミクロな磁区構造とマクロなエネルギー損失のロバストなリンクを初めて実現しました(図1)。
反転過程のエネルギーランドスケープを詳細解析した結果、顕著なエネルギー障壁が飛び値として存在することが明らかとなりました。これらの障壁においてエネルギーの成分を分解・解析したところ、交換エネルギー(磁壁エネルギー)とエントロピーが常に連動することを確認しました。これは、温度が上がるほど磁壁が伸長し、それに呼応してエントロピーが増大することを定量的に説明するものです。
さらに、エントロピー増大の「起源」となっている磁区を元の顕微鏡画像上に直接マッピングするという、新たな試みにも成功しました。磁壁のジグザグパターンが複雑化している領域や磁区の湾曲部分が、それぞれエントロピー増大の引き金となっていることが明らかになり、これまで目視では認識困難だった、隠れたゆらぎ現象を可視化することに成功しました。
図1 説明可能AI「拡張型自由エネルギーモデル」により、磁区構造の変化をデータ空間上のエネルギー地形として解析した。左図は、温度ごとの磁区構造の変化とエネルギー変化を可視化したもので、飽和、核生成、伸長、迷路状構造の形成、拡幅といった磁化反転の過程を示す。右図は、顕著なエントロピー障壁を磁区画像上に可視化したもので、ジグザグ構造の複雑化や中距離秩序の変化など、熱ゆらぎに起因する隠れた構造変化を可視化している。
本研究により、温度上昇にともなう磁性材料のエネルギー損失メカニズムの定量的な解析手法が確立され、エントロピー増大の起源の特定に成功し、具体的な材料設計指針が得られました。これは、EVや産業用モーターの鉄損低減に直結する成果であり、省エネルギー社会の実現に向けた材料開発の加速が期待されます。
さらに本モデルは、人間の目では認識困難だった、埋もれたメカニズムを可視化可能なAI手法です。物理と数学、そしてデータサイエンスを融合した説明可能AIのアプローチによって、材料開発に新たな「材料知」をもたらすことが期待されます。汎用的な自由エネルギーの概念を用いるため、その応用範囲は幅広く、磁性材料にとどまらず、半導体・電池・熱電材料など次世代材料の解析手法として、AI4Scienceの実現に貢献するものです。
※ 本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(21H04656)の支援を受けて実施したものです。また、研究の一部はJST-CREST(助成番号:JPMJCR21O1)の支援を受けたものです。なお、筑波大学 三俣 千春教授の研究は筑波大学エネルギー物質科学研究センター(TREMS)の支援を受けています。
熱力学の自由エネルギー理論を発展させ、複雑な材料構造を特徴量として扱い、自由エネルギーを機械学習で解析するモデルです。材料の構造と機能がどのようなメカニズムで結びつくかを解析できる、説明可能AIの一種です。
物質や材料の状態のばらつきや乱れの大きさを表す量です。温度が上がると磁化のふるまいにゆらぎが生じやすくなり、材料の機能や構造に影響を与えます。
磁性材料の内部には、磁気の向きがそろった微細な領域が多数存在しており、その分布や並び方を磁区構造といいます。外部磁場や温度によってこの構造は変化し、その変化のしかたが材料の性質やエネルギー損失に関わります。
画像や構造の中にある「形」や「つながり方」の特徴を記述する数学的な手法です。本研究では、複雑に変化する磁区構造を定量的に解析し、エネルギー損失との関係を解析するために用いました。
増澤 賢東京理科大学大学院2022年度修士課程修了Alexandre Lira Foggiatto東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科 助教(研究当時)國井 創大郎東京理科大学大学院 2021年度修士課程修了長岡 竜之輔東京理科大学大学院 博士課程2年谷脇 三千輝東京理科大学大学院 2024年度修士課程修了山崎 貴大東京理科大学 研究推進機構 総合研究院 助教(研究当時)三俣 千春筑波大学 数理物質系 教授、東京理科大学 マテリアル創成工学科 客員教授大林 一平岡山大学 学術研究院異分野融合教育研究領域(AI・数理)教授平岡 裕章京都大学 高等研究院 教授・センター長小嗣 真人東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科 教授
東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科 助教(研究当時)
筑波大学 数理物質系 教授、東京理科大学 マテリアル創成工学科 客員教授
岡山大学 学術研究院異分野融合教育研究領域(AI・数理)教授
東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科 教授
※PR TIMESのシステムでは上付き・下付き文字や特殊文字等を使用できないため、正式な表記と異なる場合がございますのでご留意ください。正式な表記は、東京理科大学WEBページ(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20260420_0220.html)をご参照ください。