アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、機能性繊維・スマートテキスタイルに関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。
機能性繊維・スマートテキスタイルとは
機能性繊維・スマートテキスタイルとは繊維や糸などに対して、外部刺激への応答、エネルギーの生成と変換、生体情報センシング、環境保護などの高度な付加機能を実現する技術です。
 
スポーツウェアや医療用衣料に使われる高機能テキスタイル(や、電子デバイスと融合したスマートテキスタイル(電子機能を統合した繊維製品)、自己発電機能をもつ次世代ウェアラブル素材など、ひろい技術領域をふくみます。
 
機能性繊維がカバーする技術は多岐にわたります。通気性や伸縮性、洗濯耐性といった快適性と耐久性の高度化を基盤に、摩擦帯電現象を利用したトライボエレクトリックナノ発電(TENG:Triboelectric Nanogenerator)や圧電繊維を応用したナノ発電など、人体の動きや環境振動から微小電力を収集し、外部電源なしにセンサを駆動する「自己発電型繊維」の研究が急速に進展しています。
 
素材面では、木材パルプ由来のナノセルロースやキチンナノファイバーなど、生分解性と高機能性を両立したバイオ由来素材も台頭しています。さらに、刺繍回路やコア・シース構造の導電繊維など、繊維そのものを電気信号の伝達媒体とする「電子テキスタイル(e-textile)」の実用化も進んでいます。
 
機能性繊維産業は、現在二つの構造的な変革圧力に直面しています。
 
一つは環境規制の強化です。欧州連合(EU)は2022年以降、繊維製品への拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)導入やサステナビリティ情報開示義務の制度化により、循環型デザインや廃棄物削減、過剰消費の是正を産業界にもとめています。廃棄繊維を原料にもどす「繊維間リサイクル(textile-to-textile)」を前提とした製品設計の普及や、環境負荷をおさえた製造プロセスへの転換など、サステナビリティへのとりくみはもはや差別化要因ではなく産業の前提条件になりつつあります。
 
もう一つの変革圧力は、エレクトロニクスやナノテクノロジー、バイオ素材との融合です。これらの技術進展が繊維にあらたな機能を付与し「素材産業」という従来の枠組みをこえた新産業の創出をうながしています。
 
公的な支援体制も急速に整備されています。
 
米国や欧州を中心に、繊維の循環経済や次世代スマートテキスタイルを対象とした大型の研究助成プロジェクトがあいついで立ちあがり、各国政府が「機能性繊維」分野を産業戦略上の重点領域に位置づけていることが見うけられます。
 
日本においても大手素材企業を中心に継続的な研究開発投資がおこなわれており、機能性繊維分野における国際的なプレゼンスを維持しています。こうした背景から、機能性繊維・スマートテキスタイルは、持続可能な産業構造への転換とテクノロジーの融合という二つの潮流が交差する、次世代フロンティアとして注目されています。
 
以下、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、特許・学術論文・グラント(研究助成金)・スタートアップ企業情報の4つのデータソースから、「機能性繊維・スマートテキスタイル」に関する技術動向を分析しました。
機能性繊維・スマートテキスタイルに関する特許の動向分析
アスタミューゼ独自のデータベースから、機能性繊維・スマートテキスタイルに関連するキーワードを含む特許母集団37,933件を抽出しました。企業や研究機関が出願する特許は、社会実装が近い、あるいはすでに実装済みである技術の動向を反映します。今回抽出された特許は7つのカテゴリに分類できます(図1)。
図1:機能性繊維に関連する特許母集団の概要(色付き項目は特許母集団に特徴的な領域)
図2は国別の特許出願数の動向です。 
図2:機能性繊維に関する国別特許出願件数の年次推移(2013~2023年)
国別の出願件数では、全体の過半数を中国が占めています。本分野における研究開発の中心となっており、近年も一貫した増加傾向にあります。
 
つぎに日本、米国が続きます。日本は2010年代前半をピークに横ばいで推移しており、長年の技術蓄積を背景にした安定した出願活動が続いています。米国は件数こそ相対的に少ないものの、高付加価値領域への集中が見られます。
 
出願機関の観点では、衛生・医療向け不織布製品を手がける米国企業や、炭素繊維・アラミド繊維などの高機能素材で世界をリードする日本の繊維大手が上位に名をつらねており、素材の機能化と実用化への継続的な投資が見てとれます。
 
図3は、特許情報から抽出されたキーワードの年次推移です。
図3:機能性繊維に関する特許のキーワード年次推移
成長率(growth)は、2015年以降の出現回数と2020年以降の出現回数の比であり、値が1に近いほど直近で注目されていることを意味します。以降の図においても同様の表記になります。
 
2020~2022年にかけて「spunblown(スパンボンド・メルトブローン複合)」や「coform(コフォーム)」などの不織布製造関連キーワードの出願件数が急増しています。この時期はCOVID-19(新型コロナウイルス)の感染拡大によりN95マスクや医療用ガウンの需要が世界的に急騰した時期とかさなっており、感染症対応という一過性の需要を背景にしている可能性が考えられます。実際、2023年以降は件数がおちついており、構造的な技術トレンドとは区別してとらえることが適切です。
 
一方、より持続的な技術動向として注目されるのは次の3点です。
 
第一に「triboelectric(摩擦帯電)」、および「self-powered(自己発電)」関連の出願が、2018年以降一貫して増加しており、バッテリーレス型ウェアラブルデバイスに向けた実用化研究が特許段階に移行しつつあることをしめしています。
 
第二は、「core-sheath(芯鞘構造)」です。繊維の断面が「芯(コア)」と「鞘(シース)」の二層構造になっており、芯部に強度や導電性をになう素材、鞘部に肌ざわりや保護機能をになう素材を組みあわせることで、複合的な機能を一本の繊維で実現する技術です。これは電子機能を繊維に統合するための基本設計として幅広い用途にもちいられており、スマートテキスタイル特許の基盤技術としての位置づけが高まっています。
 
第三は、「nanocellulose(ナノセルロース)」「chnf(キチンナノファイバー)」など生分解性バイオ由来素材の出願増加です。ナノセルロースは木材や植物の細胞壁を構成するセルロース繊維をナノメートルスケール(=髪の毛の数万分の1のサイズ)まで微細化した素材です。軽量・高強度・生分解性をかねそなえる次世代バイオ素材として注目されています。チキンナノファイバーはカニやエビの甲殻、昆虫の外骨格などにふくまれるキチン質をナノスケールまで微細化した繊維です。 生体適合性が高く、抗菌・生分解性素材として研究が進んでいます。これらの素材は、石油系合成繊維の代替という長期的な方向性が特許においても確認できます。また、「anti-ultraviolet(紫外線遮蔽)」「anti-static(制電)」「skin-friendly(低刺激)」といった機能加工系のキーワードは安定した出願水準を維持しており、市場の根強い需要を反映しています。
 
以下、注目の特許事例を何点か紹介します。
US20240009960A1「Waterproof Breathable Textile」
出願機関:Amphibio Ltd
優先権:英国(GB、2020年)
公開国:米国
公開年:2024年
概要:基材と多孔質膜を同一素材で構成することで、透湿性と防水性を両立しながら廃棄時のリサイクル適性も高めた透湿防水テキスタイル。従来のフッ素系膜(ePTFE)がもつ環境・リサイクル課題を解消する次世代の「breathability(通気性)」技術として注目される。
US11958944B2「Polyester-cotton blend textile recycling process and system with rotating hydrolysis reactor」
出願機関:Hybridworks Chemical, LLC(米国)
出願国:米国
公開年:2024年
概要:ポリエステル・コットン混紡廃棄繊維を回転式加水分解反応器で連続処理し、ポリエステルとセルロースをそれぞれ高品質な原料として同時回収する繊維間リサイクル技術。従来困難だった混紡素材のtextile-to-textileリサイクルを産業スケールで実現する。
US20240186916A1「Materials and methods of manufacturing fluid resistant, breathable, and antibacterial triboelectric nanogenerators and electronic textiles」
出願機関:Purdue Research Foundation(米国パデュー大学)
出願国:米国
公開年:2024年
概要:刺繍技術と導電性ナノ粒子の噴霧積層を組みあわせた全繊維型TENGを開発。耐水・抗菌・透湿性をそなえた電子テキスタイルとして着用者の生体力学的エネルギーを電力に変換する。self-powered型スマートテキスタイルの実用化にむけた特許として、core-sheath構造と併用可能な設計が特徴。
US20240270926A1「Process and plant for recycling textiles」
出願機関:Sanko Tekstil Isletmeleri San. Ve Tic. A.S.(トルコ)
出願国:米国
公開年:2024年
概要:ポリエステルと綿の混紡廃棄繊維を化学的に分解し、再生コットン繊維やポリエステルチップ、セルロースパウダーとして同時回収するtextile-to-textileリサイクル技術。wasteキーワードの急増と連動する循環型繊維産業への移行を象徴する特許事例。
(以降、機能性繊維・スマートテキスタイルに関する論文およびグラント、スタートアップ企業の事例やキーワード分析、および全体のまとめについては、弊社コーポレートサイトの該当ページでご確認ください)
 
著者:アスタミューゼ株式会社 岸本 拓磨 博士(医学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「機能性繊維・スマートテキスタイル」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
 
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。
 
それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。
 
また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。
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