官・民・アカデミアの立場を超えた14名の対話から見えた、これからのケアのあり方とは
介護のトータルケアカンパニーとして全国47都道府県で障害をお持ちの方や高齢者に介護サービスを提供する株式会社土屋(本社:岡山県井原市、代表取締役:高浜敏之)は、2026年3月7日(土)、『ケアサミット2026―立場を超え“利用者のための共創”を実現するには ―』を開催しました。このたびイベントの反響を受け、イベントレポートを公開いたします。
■イベント実施の背景
介護・福祉業界では、長年「営利と非営利の役割」や「ケアの質と量」といったテーマが議論されてきました。近年、高齢化などに伴い介護・福祉のサービス需要や注目はますます高まり、福祉の担い手が多様化する中で、土屋はこうしたテーマについて多様な立場の関係者が集まり議論する場として、「ケアサミット2026」を開催しました。
■イベント概要
本イベントは二部構成で開催されました。
 
第一部では「医療・介護領域における、営利と非営利それぞれの役割を考える」をテーマに官・民・アカデミアより5名の方に登壇いただき、パネルディスカッションを実施。介護・福祉分野における営利と非営利の関係や、それぞれの存在意義について議論が行われました。
 
第二部では「ケアの質と量について、多様な視点から考える」をテーマに、小規模~大規模の事業者7名に登壇いただきました。登壇者がフリップボードにキーワードを書く形で、意見を交わしました。
 
当日は会場参加とオンライン参加を合わせて約400名にご参加いただきました。
<イベント概要>
日時:2026年3月7日(土)13:00~16:00
場所:AP新橋・オンライン
登壇者(※以下、敬称略・五十音順):

第一部:
・大竹 雄二(厚生労働省 障害福祉課 課長)
・駒崎 弘樹(つながりAI株式会社 代表取締役)
・坂野 悠己(特別養護老人ホーム 駒場苑 施設長)
・高浜 敏之(株式会社土屋 代表取締役 兼 CEO)
・松原 由美(早稲田大学 人間科学学術院 教授)
・MC:町 亞聖(フリーアナウンサー)

第二部:
・大牟禮 康佑(あおぞらケアグループ代表)
・小池 昭雅(アイ・ウィッシュ株式会社 代表)
・佐伯 美智子(合同会社MUKU 代表)
・菅原 健介(株式会社ぐるんとびー 代表)
・高浜 将之(株式会社土屋 常務取締役)
・藤田 英明(茶話本舗 創業者)
・星 敬太郎(株式会社土屋 ホームケア土屋スーパーバイザー)
・MC:秋本 可愛(株式会社Blanket 代表取締役/KAIGO LEADERS 発起人)
■第1部イベントレポート:「医療・介護領域における、営利と非営利それぞれの役割を考える」
※本レポートは、当日の流れをそのまま再現したものではなく、主催側でポイントを抜粋してまとめた内容となっております。
町さん(フリーアナウンサー、以下MC):
社会福祉法人で長く働かれ、現在特別養護老人ホームの駒場苑の施設長である坂野さんにお伺いしたいのですが、現在さまざまな事業者が介護・福祉業界に参入する中で、営利企業との壁を感じることはありますか?
 
坂野さん(特別養護老人ホーム 駒場苑 施設長):
個人的には、営利と非営利を分けて考えたことはほとんどなく、今回テーマをいただいて初めて意識しました。
ただ社会福祉法人で長く働く中で、「営利法人は金儲けのためにやっている」といった声があるのも事実です。そうした意見をよくよく聞いてみると、理論的というよりは、介護保険が始まって民間が一気に入ってきて、社会福祉法人が少数派になってきた中での不安や嫉妬のような感情も含まれているのではないかと感じています。
 
社会福祉法人だけでは数も経営力も足りないですし、実際に民間が入ってきて良かった部分も大きいと思っているので、そういう対立のようなものは乗り越えていきたいなと思っています。
 
駒崎さん(つながりAI株式会社 代表取締役):
今のお話を聞いていて、僕が関わっている保育業界とすごく似ているなと思いました。保育業界でも、株式会社の保育園に対して「保育の魂がない」とか「金儲けのために子どもと接している」などと言っていることがあるので、デジャブだと感じました(笑)
 
ただ保育の場合は、待機児童の問題があって供給が追いつかなかったので株式会社の規模拡大の力が必要だったという面もあります。実際、100園、200園と運営しているような団体はほとんど株式会社だったりするんですよね。そのように「供給量をつくる」という意味でも営利法人の役割は大きいと思います。
 
一方、資本の論理が福祉になじまない場合も当然ありますよね。だから営利と非営利、それぞれの役割をうまく活かすためのデザインが必要なんじゃないかなと思います。
MC:
今のお話を聞いていると、営利と非営利の壁というよりも、それぞれの役割や制度設計の問題という話にも聞こえてきます。この点について、福祉全般の経営をテーマに研究されてきた松原さんからはどう見えていますか?
 
松原さん(早稲田大学 人間科学学術院 教授):
営利組織と非営利組織って、あくまで乗り物に過ぎないんですよね。会社のビジョンやミッションを実現するためにどちらの乗り物がいいかを選んでいるだけなので、どちらが上とか下とか、良いとか悪いとかいう話ではないというのが前提にあると思います。
 
もちろん違いはあります。一般的には、営利組織は利益を配当できますが、非営利組織は利益を配当できません。ただ営利組織のその利益最大化が目的化しすぎると、資本の論理だけが先行してしまって、「とにかく利益を出したい」という方向に走る危険性もあります。一方で、非営利では赤字でもミッション追求を行おうとする場合もある。なのでガバナンスが問題だと思います。
 
駒崎さん:
僕はフローレンスを退任し、現在「つながりAI」というスタートアップをやっているのは、まさに非営利か営利かは乗り物に過ぎないというところに繋がると思います。今は「株式会社」という乗り物ですが、魂は社会課題の解決ということでやっています。AIを使って子どもたちのセーフティーネットを維持したいという魂です。変わってないどころか、よりこの社会課題を解決したいという思いです。
 
坂野さん:
私が非営利組織にい続ける理由のひとつは、初めて介護業界に入ったのが特養でその環境があまりにも劣悪でそこに対する怒り、そして「そういう環境を少しでも減らしたい」という思いがあります。
 
特に特養は重度の方が多く、意思疎通も難しい中で、不適切なケアや虐待が起きても気づかれにくい構造があると思っています。だからこそ、まずは利用者が嫌な思いをしない介護が受けられる状態をつくることが重要だと思っています。
MC:
今日のテーマについて、介護保険制度の導入前後で営利・非営利の感覚も変わったこともあるかと思います。このあたりは、厚生労働省で障害福祉を担当されている大竹さんはどのように考えていますか?
 
大竹さん(厚生労働省 障害福祉課 課長):
介護も障害福祉も営利企業の参入を認めています。これによってサービス基盤が広がることを期待していたところもありますし、実際に基盤が広がったという意味ではよかった面もあると思っています。
 
一方で最近SNSなどでは「グループホームで年20%利回り保証します」など、営利面の訴求が強い広告が出てくることもあります。もちろん全ての営利法人がそういうわけではありませんが、広告などからも「儲かりそうだから福祉事業に参入する」という動きが目立つ部分もあるのかと思っています。そのような事業者に対して、制度としてどう対応していくかという課題はあると感じています。
MC:
ありがとうございます。では最後に、営利と非営利それぞれの存在意義についてもお伺いしたいと思います。
 
松原さん:
私は、究極的に福祉というのは「人の存在意義の発揮を支援すること」だと考えているので、それができているかどうかということだと思います。
 
GIVER(人に与えることを優先する人)、TAKER(奪うことしか考えていない人)、MATCHER(「くれるならやるよ」というタイプの人)という分類をしているアダムグラントという学者がいらっしゃるのですが、面白いのは、最も失敗するのもGIVER、最も成功するのもGIVERだと言われていることです。自分の状況を顧みずに与え続けると潰れてしまう。でも、自分の状況をちゃんと理解しながら与え続ける人は成功する。福祉の世界は、まさにGIVERの精神で成り立つ仕事だと思っています。
 
ただ、GIVERであるためには最低限の生活が必要です。処遇改善なくして人材確保なしですし、そのためには財源も必要になります。その意味でも、この福祉の価値を自分たちで言語化して社会に伝えていくこと、そして「営利/非営利」で対立するのではなく、協力してより良い仕組みを作っていくことが重要だと思っています。
駒崎さん:
NPO業界はいま「アイデンティティクライシス」のような状況になっていると思います。昔は社会課題解決と言えばNPOの専売特許だったんですけれども、今は株式会社も「社会課題解決」と言うようになっている。
 
そうなった時に「NPOは何なのか」という議論が起きているのですが、一つの方向性として僕がお話ししたいのは、非営利は人を助けるだけではなく、その人の可能性を引き出すという役割があるのではないかという考え方です。市場原理とは少し違うところで、人を「人間として」見る。その人の存在意義を引き出していくという役割が、非営利の大きな特徴なんじゃないかという議論がされています。
高浜 敏之さん(株式会社土屋 代表取締役 兼 CEO):
「箱じゃないよ、魂だよ」という話には私も賛同するんですけれども、一方で私たちは箱も大事だと思っています。
非営利組織という箱は、理事会などによる民主的な仕組みがあるので、「社会を変える」という意味では、非営利組織の方が適している部分もあると思っています。株式会社の場合、株を66.7%以上持っているとほぼその人の一存で決まるので、リスクになりえます。

一方で営利という箱のメリットでいうと、私たち土屋は「介護を受けたくても受けられない人をなくす」というミッションを掲げており、昨年和歌山県南部で「重度訪問介護の利用者がゼロ」という状況に対して事業所の運営をスタートしました。こうした取り組みができるのは、企業としての体力があるからこそ生まれた余力によるのだと思います。
 
またスタッフの教育投資や採用の面でも応募数が増え人を選ぶことができるので、そういう意味では規模が大きいからこそ質を上げられる可能性もあるのではないかと思っています。営利か非営利かというより、それぞれの強みをどう活かすかを考えていけたらと思います。
■第2部イベントレポート:「ケアの質と量について、多様な視点から考える」
テーマ1.「質がいいケア」とは何か?
藤田さん:自由
星さん:生活に選択肢があること
高浜さん:コンプライアンス
大牟禮さん:最期まで主体的に生きられること
菅原さん:恋をするように人に向き合う関係性
小池さん:尊厳と自立支援(その人らしさの保持と自己選択・自己決定)
佐伯さん:「のに」と「べき」を減らすこと
 
佐伯さん(合同会社MUKU 代表):
私は佐賀県唐津市で小規模多機能・看護小規模多機能の事業所をしていますが、質がいいケアを行うためには、利用者さんが「今ご飯を食べたいと思っていないのに」「今お風呂に入りたいと思っていないのに」といった“のに”を、できるだけ減らしていくことが重要だと思っています。同時に、スタッフ側の「こうするべき」という“べき”もできるだけ手放す必要もあると思います。
 
利用者さんが、その人としてそこにいられる。物ではなく一人の“個”として扱われている状態が高いケアにつながるのではないかと思っています。
小池さん(アイ・ウィッシュ株式会社 代表):
僕は群馬県高崎市にて高校の教員と小規模多機能プレイスを運営しています。学校は夢を見る場所で、現場はその夢を叶える場所だと思っています。なので、「尊厳と自立というその人らしさがちゃんと保持され、自己選択・決定ができているか」が質の高さにつながるのではないかと思っています。
菅原さん(株式会社ぐるんとびー 代表):
僕ら「ぐるんとびー」で、大事にしていることの一つは、目の前の人にちゃんと気にかけられているかということです。その中で僕らは、“じいちゃん・ばあちゃんに恋するようなケアができるかどうか”が一つの質なんじゃないかと思っています。恋愛と同じで、良かれと思ってやったことがうまくいかないこともあります。でもそれも含めて、一人ひとり関わっていくことを大事にしています。
高浜 将之さん(株式会社土屋 常務取締役):
ケアの質はかなり抽象的だと思っていて、その瞬間の質もあれば、事業所としての平均値としての質もあるし、利用者一人ひとりの生活の質もあると思います。そういう意味で定義が曖昧になりやすい中で、現在事業所数が日本全国にある土屋という立場としては、“最低限守らなければいけないラインを考えること”がいいケアとして重要だと思っており、コンプライアンスと定義しました。
 
また我々は「顧客満足度調査」を定期的に行っており、利用者さんたちにその質を評価してもらうというような取り組みをしております。 質というとどうしても上を目指す話になりがちですが、まずは企業としてケアの質として、ボトムラインとして守るべきものを明確にすることが大事だと考えます。
藤田さん(茶話本舗 創業者):
質がいい状態は、自由であることだと思っています。介護施設等に入所すると「お風呂の時間は何時です」、「ご飯は何時です」と急に自由が奪われてしまうというところが質に関わるのではないかと。そのため、茶話本舗でもどの施設を使っても自由が担保されているという状態が質の高さにつながるのではないかというのが私の考えです。
テーマ2.ケアの質と量は両立できるのか?
藤田さん:できない
高浜さん:「できる」けど「できない」
星さん:「条件付き」質の定義による
大牟禮さん:両立可能
小池さん:「条件付き」人材育成のシステム
菅原さん:「できる」し、「できない」
佐伯さん:文化があればできる
星さん(株式会社土屋 ホームケア土屋スーパーバイザー):
ケアの質と量の両立について私は「条件付き」と書かせていただきました。まず我々は福祉事業を運営して介護報酬を頂いているので、行政の基準を守ること、つまりコンプライアンスを守るということが大事だと思っています。その一つラインを引けば、量も増やしていけるのではないかと思います。
そこで土屋では「内部監査」という社内で行政の運営指導を想定して社内で監査したり、事前に行政にこちらから申告したりする体制整備もしています。そのような工夫をしながらであれば、一定、ケアの質と量を担保した形で広げられるのかなとは思います。
 
また“強度行動障害などなかなか他の事業者が受け入れできない方のセーフティネットとして機能しているかどうか”というのも、大規模事業所だからこそできることで一つ質を測る視点にはなると思うのですが、それは弊社の150以上の事業所の中でもたった一つであり、その管理者さんだからできるという属人性の高さが大事であることもまた事実です。そのため、質をどう定義するかによって広げられるし、広げられないというふうに思っています。 
藤田さん:
質と量は両立できないと思います。もちろんどれぐらいの期間でどれぐらいの量を拡大するのかにもよるのだとは思うのですが、基本的には量を拡大すれば、その分質の低い事業者や事業所は一定確率で必ず現れてくるというふうに思います。
 
茶話本舗は950店舗まで拡大したのですが、その中で質に対する取り組みとしては、加盟店のオーナーへの研修や現場で働く人への研修と独自にガイドラインを作っていました。

佐伯さん:
私が「文化があればできる」と書いたのは、独自の文化があればその質を担保しながら量を増やすことができるのではないかと考えたんです。 「うちの事業者だったら、これは許すけど、これは許さないよな」といった文化が自然に習慣として職員にも馴染んでいくと、その文化を受け継ぐ人の総量を増やすこともできると思います。
 
菅原さん:
文化の話には、共感することがあります。僕らは制度事業なのでコンプラを守るのが基本で、コンプラを守った上でどこまでやるのか、どれだけのバリエーションを提供するかは企業それぞれのエゴの部分だと思います。
 
では「そのエゴを誰が評価するか」ですが、ラーメン屋さんに例えると「食中毒出さないようにこういう手順で作ってください」というのが「コンプラ」だとして、スープはコテコテなものを作りたいか、あっさりがいいのかがそれぞれの文化だと思います。僕はスープ(文化)はみんな好きなものを選んで、みんな食べればいいじゃんって思います。
大牟禮さん(あおぞらケアグループ代表):
「ケアの量と質は両立可能かどうか」というより、両立させないといけないと思っています。私たちあおぞらケアグループも、土屋さんが取り組まれているような難易度の高いケアや“自分たちが良いと考えるケア”をどう広げていくかを常に考えています。

そのためには、私はある程度の規模拡大も必要になると考えています。では、パーソナライズされたケアのような“いいケア”をどのように広げていくのかという点においては、一定のオペレーションを構築し、誰でも再現できる形に落とし込むことが重要だと考えています。
 
もちろん本来は教育によって人材を育てることが理想ですが、私たちのように規模拡大を目指す事業所では、育成のスピードが事業の展開に追いつかないのが実情です。そのため、そのギャップをオペレーションによって補いながら、質と量の両立を図っていきたいと考えています。
■ まとめ:問い続けることが、ケアの未来をつくる
第1部MC(町さん):
今回の議論の中で「答え」が出なくても、それで良いのだと思います。 ぜひ皆さまのそれぞれが問いを持ち続けていただくことに価値があるのではないでしょうか。
 
また社会にはまだ顕在化されていない問題もあります。だからこそ、「営利・非営利」や事業者の規模などにとらわれず、ぜひこのイベントを機に、より広い視野で答えのない問いに目を向ける機会になってほしいなと思います。
第2部MC(秋本さん/株式会社Blanket 代表取締役):
第二部で議論された「質がいいケアとは何か」などは答えがないもので、いろんな価値観が今日は議論の中であったかなと思います。私自身も、「問い続けることそのものがケアを前に進めることになるのかもしれない」と感じました。ぜひ皆さんそれぞれの現場で明日から活かしていただけたら大変嬉しいです。
■今後の展望
本イベントに、ご登壇・ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
今回の反響を受け、現在、「ケアサミット2026」第二弾の開催も企画しております。

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みなさまに、またお会いできる日を楽しみにしています。

※本レポートは、当日の流れをそのまま再現したものではなく、主催側でポイントを抜粋してまとめた内容となっております。