すべての自動化システムをクラウドに接続し、世界中からオンラインで実験できる研究インフラを構築
Tsubame Lab株式会社(本社:東京都目黒区、代表取締役:楢崎鴻司朗、以下「Tsubame Lab」)は、クラウド型自動実験プラットフォーム「Tsubame Cloud Lab」の運用を開始したことをお知らせします。
本プラットフォームは、研究者が場所を問わずオンラインから実験を設計・実行・データ管理できる研究インフラです。当社が導入するすべてのラボオートメーションシステムを単一のクラウドプラットフォームに統合し、国内初の「分散型クラウドラボネットワーク」として本格始動します。
当社開発のラボオートメーション機器の例:着脱式アタッチメントによる分注・搬送の機能切替と、外部ロボットアームによる試料・チップ・ウェルプレートの供給を統合したラボオートメーションシステム
研究の現場で何が起きているのか ― 研究者の時間の大半が「作業」に消えている
大学の研究室や企業のR&D部門で働く研究者の日常は、多くの人がイメージするものとは大きく異なります。仮説を立て、実験をデザインし、得られたデータを分析して新しい知見を導き出す--こうした「研究の本質」に充てられる時間は、実は1日のうちごくわずかです。研究者の創造的活動に費やせる時間は全体の10%以下ともいわれています。
では残りの時間は何に使われているのか。試薬の秤量と調製、培地の作成、ピペットによる液体の分注、遠心分離機やインキュベーターの操作、器具の洗浄と滅菌、実験ノートへの手書き記録、データの手動入力--こうした繰り返し作業が、研究者の1日の大部分を占めています。これらの作業は一つひとつは単純ですが、正確さが求められ、ミスが許されず、そして膨大な時間を消費します。
この問題は単に「研究者が忙しい」という話にとどまりません。手作業に依存した研究プロセスは、科学そのものの信頼性を脅かしています。研究の再現性--同じ手順で同じ結果が得られるかどうか--は科学の根幹をなす原則ですが、現実には多くの研究者が他者の実験を再現できなかった経験を持ち、自分自身の過去の実験すら正確に再現できないケースも珍しくありません。原因の多くは、実験条件の微妙なばらつき、記録の不備、暗黙知に依存したプロトコルにあります。これらはすべて、研究プロセスが人の手作業と記憶に頼っていることに起因する構造的な問題です。
ラボオートメーションとは何か ― 研究を「手作業」から解放する技術
こうした課題を解決するために生まれたのが「ラボオートメーション」という技術領域です。
ラボオートメーションとは、ロボットアームや自動分注装置、センサー、制御ソフトウェアなどを組み合わせ、実験の準備・実行・計測・記録を自動化する技術の総称です。人間が手で行っていた作業をロボットが代替することで、24時間365日の連続稼働が可能になるだけでなく、実験条件の完全な再現性が担保されます。試薬の量、温度、時間、操作の順序--すべてがデジタルに制御・記録されるため、「誰がやっても同じ結果が出る」実験が実現します。
欧米では、製薬企業の創薬スクリーニングや素材メーカーの材料探索において、ラボオートメーションはすでに不可欠なインフラとなっています。近年ではAIとの連携により、実験結果をリアルタイムで解析し、次に行うべき実験をAIが自動的に提案・実行する「自律型実験(Self-Driving Lab)」も実用化が進んでいます。
一方、日本におけるラボオートメーションの導入は、まだ黎明期にあります。その最大の障壁はコストと導入のハードルの高さです。従来のラボオートメーションシステムは、各研究室の実験プロトコルに合わせたセミオーダー型が主流であり、価格は数千万円から数億円規模、導入までの期間も1~2年に及ぶのが一般的です。さらに、導入後のメンテナンスやソフトウェアの更新にも専門人材が必要であり、大企業の一部の研究所を除けば、大学の研究室や中小企業にとっては事実上手の届かない存在でした。
結果として、日本の研究現場では多くの実験が依然として手作業で行われており、欧米との生産性格差は年々拡大しています。
クラウドラボとは何か ― 実験室をインターネットの向こう側に
ラボオートメーションのさらに先にある概念が「クラウドラボ」です。
クラウドラボとは、完全に自動化された実験設備をクラウド上のサービスとして提供し、研究者がインターネット経由で実験を設計・発注・実行・データ取得できる仕組みです。研究者は自分の実験室に高額な装置を置く必要がなく、ブラウザやAPIを通じて、世界中のどこからでも必要な実験を実行できます。
これは、クラウドコンピューティングがIT業界に起こした変革と本質的に同じです。かつて企業は自社でサーバーを購入・管理しなければなりませんでしたが、クラウドサービスの登場により、必要なときに必要なだけコンピューティングリソースを使えるようになりました。クラウドラボは、これと同じことを「実験」の領域で実現します。自前の実験室を持たなくても、あるいは自前の装置では実行できない実験でも、クラウドラボにアクセスすれば即座に実行できる--そういう世界です。
クラウドラボの利点は、コスト削減だけではありません。すべての実験がデジタルプロトコルとして記述され、実行条件と結果が自動的に記録されるため、完全な再現性とトレーサビリティが保証されます。また、世界中の研究者が同じプラットフォーム上で実験を行うことで、データの共有や共同研究が飛躍的に容易になります。
米国ではすでに複数のクラウドラボサービスが商用展開されており、製薬企業やバイオテック・スタートアップが日常的に利用しています。一方、日本にはクラウドラボと呼べるサービスはまだ存在しません。
Tsubame Labは、この「ラボオートメーション」と「クラウドラボ」を日本で初めて統合的に展開するスタートアップです。
私たちのアプローチ ― SIerではなく、プラットフォームを拡張する
ここで重要なのは、Tsubame Labが単にラボオートメーションの導入を請け負う会社でも、単にクラウドラボを運営する会社でもないということです。
従来、ラボオートメーション業界ではこの2つは別々のビジネスとして扱われてきました。顧客の研究施設にシステムを導入するSIer(システムインテグレーション)事業と、自社施設でクラウドラボを運営するサービス事業は、技術スタックもビジネスモデルも異なる、まったく別の事業として存在してきたのです。導入したシステムはその企業の中で閉じた存在であり、他の施設や外部のユーザーと接続されることはありませんでした。
Tsubame Labはこの分断を根本から覆します。
当社が導入するすべての自動化システムは、初日からクラウドに接続され、単一のプラットフォームに統合されます。 言い換えれば、私たちはSIerを営んでいるのではなく、導入のたびに拡大していく分散型クラウドラボネットワークを構築しています。
2つのクラウドラボで構成されるネットワーク
Tsubame Cloud Labは、以下の2つの形態でネットワークを拡張します。
1. Networked Cloud Lab(ネットワーク型クラウドラボ)
企業や研究機関の施設内に設置する自動化システムです。外見だけを見れば、従来のラボオートメーション導入と同じように見えるかもしれません。ロボットアームが並び、分注装置が動き、研究者はそのシステムを使って日々の実験を自動化する--ここまでは従来と同じです。
しかし、決定的に異なるのは、すべてのシステムが当社のクラウドプラットフォームに接続されている点です。これにより、従来のラボオートメーションでは不可能だった以下のことが実現します。
リモートアクセス: 研究者は自宅や出張先など、場所を問わず実験の設計・実行・監視が可能です。深夜に思いついた実験プロトコルを、翌朝出勤するまでに自動実行しておくこともできます。
クラウド上のデータ一元管理: 実験の設計条件、装置の動作ログ、計測データのすべてがクラウド上に自動的に蓄積・整理されます。紙の実験ノートに手書きで記録する必要はなく、データの検索・共有・再利用が即座に可能です。
組織内の部門横断利用: 同一組織内の複数の研究チームが、同じ自動化システムをクラウド経由で共有利用できます。装置の予約・スケジューリングもオンラインで完結するため、高額な装置の稼働率を大幅に向上させることができます。
セキュリティ要件の厳しい企業--たとえば知的財産の保護が最優先される製薬企業や、機密性の高い研究を行う防衛関連の研究機関--には、完全オンプレミス型(施設内完結型)の構成も提供可能です。この場合でも、システムは同一のアーキテクチャ上で設計されるため、将来的にクラウド接続へ移行する際にもシステムの大幅な改修は不要です。
そして最も重要なポイントがあります。クラウドに接続されたシステムは、部門間で共有できるだけでなく、装置が稼働していない時間帯に外部のユーザーへ開放することも可能になります。たとえば、ある製薬企業が導入した自動化システムの夜間・休日の空き時間を、スタートアップや大学の研究者がクラウド経由で利用する--そのようなことが技術的に実現できます。
つまり、Networked Cloud Labの導入は、単なるシステム納品ではありません。顧客のラボの一つひとつが、当社のクラウドラボネットワークの「ノード」(接続拠点)へと変わるのです。
2. Core Cloud Lab(コア・クラウドラボ)
Tsubame Labが自社で構築・運営する、完全自動化された実験施設です。Networked Cloud Labが顧客施設内に分散配置されるのに対し、Core Cloud Labは当社が直接管理する中核拠点として機能します。
ユーザーは自身の研究室にいながら、クラウドを通じてCore Cloud Labの装置にアクセスし、実験プロトコルを送信して実行させ、結果をリアルタイムで受け取ることができます。自前の自動化装置を持たない研究者や、特定の装置・手法を試したい研究者にとって、最も手軽にクラウドラボを体験できる入り口となります。
当社は現在、東京科学大学キャンパス内の自社ラボに加え、東京都内にウェットラボ・研究開発拠点(文京区湯島TIPラボ、荒川区白鬚R&Dセンター)を確保しています。大学の研究環境と直結した開発体制のもと、研究・試作・実証を一体的に高速実行できる環境を整備しています。今後、需要の拡大に応じて拠点を順次増設し、Core Cloud Labのキャパシティを拡張していく計画です。
クラウドラボ装置の例(DLS装置による測定自動化)
同一プラットフォーム、同一技術基盤 ― なぜこれが重要なのか
Tsubame Cloud Labの設計において最も重要な原則があります。それは、Networked Cloud LabとCore Cloud Labがまったく同じプラットフォーム上で動作するということです。
同一の技術スタック: ハードウェア制御からデータ処理まで、共通のソフトウェアアーキテクチャを使用
同一のデータインフラ: すべての実験データが同じ形式で蓄積・管理される
同一のユーザーインターフェース: 当社のAI搭載実験設計ソフト「T-Lab Studio」を通じて、どちらのラボにも同じ操作体験でアクセス可能
同一のAIレイヤー: 蓄積された実験データをもとに、プロトコルの最適化や異常検知を行うAI機能が、すべてのラボに共通して適用される
この設計が意味するのは、ビジネスの観点から見てこれが2つの別々の事業ではなく、ひとつの統合プラットフォームであるということです。顧客企業に導入したNetworked Cloud Labで蓄積されたデータやプロトコルの知見は、プラットフォーム全体のAI精度向上に貢献し、その恩恵はCore Cloud Labのユーザーにも還元されます。逆もまた同様です。ネットワークが拡大するほど、プラットフォーム全体の価値が向上していく--これがTsubame Cloud Labの構造的な強みです。
なぜこのモデルが重要なのか ― 従来のSIerとの本質的な違い
従来のラボオートメーションのSIer型ビジネスには、構造的な限界があります。
まず、すべてが案件単位のプロジェクトです。顧客ごとに仕様を設計し、システムを構築し、納品する。納品後は保守契約があるにせよ、基本的にはそこで関係が一区切りとなります。次の顧客は、またゼロから始まります。
次に、データが蓄積されません。各顧客のシステムは独立しており、ある企業で得られた知見が別の企業の効率化に活かされることはありません。
そして、スケールしにくい構造です。売上はエンジニアの稼働時間に比例するため、成長には人員の増加が不可欠であり、利益率の改善にも限界があります。
Tsubame Labが目指すモデルは、これらすべてにおいて根本的に異なります。
導入するたびにネットワークが拡大する: 新しい顧客にシステムを導入するたびに、クラウドラボネットワークに新しいノードが追加されます。ネットワーク全体の規模と能力が、顧客の増加に比例して成長します。
実験データがプラットフォーム上に蓄積される: すべてのラボで実行された実験のデータ(もちろん、適切なアクセス制御のもとで)がプラットフォームに蓄積されます。このデータは、プロトコルの最適化、装置の予防保全、新しい実験手法の開発など、多様な価値を生み出します。
AIが蓄積データを活用し、自動化の精度を継続的に向上させる: データが増えるほどAIモデルの精度が向上し、実験の成功率や効率が上がります。これは個々の顧客にとっても、プラットフォーム全体にとってもメリットとなる好循環を生み出します。
将来的にはマーケットプレイスの形成も視野に入る: ネットワーク上の各ラボの空き時間が可視化されることで、「実験リソースのマーケットプレイス」が自然に形成されます。自動化装置を持つ企業は空き時間を収益化でき、装置を持たない研究者は必要なときに必要なリソースにアクセスできる。双方にとって合理的なエコシステムが生まれます。
一言で表すなら、私たちはクラウドに接続された実験室のグローバルネットワークを構築しています。Core Cloud LabとNetworked Cloud Labは、そのネットワークを拡大するための2つの手段にすぎません。
Tsubame Labについて
Tsubame Labは、東京科学大学第15号認定ベンチャーです。同大学キャンパス内に自社ラボを構え、大学の研究環境と直結した体制で技術開発と事業実証を同時に推進しています。
すでに生命科学・医療系研究室およびマテリアル系企業への有償導入実績があり、製薬企業・化学メーカー(上場企業含む)からラボ全体自動化に関する問い合わせ・共同検討も進行中です。
Tsubame Labの導入実績例
今後の展望
Tsubame Labは、Cloud Labの本格SaaS展開を目指し、段階的にネットワークを拡大していきます。
まず国内においてNetworked Cloud Labの導入実績を積み上げながら、Core Cloud Labの拠点を増設し、対応可能な実験領域を拡張します。並行して、T-Lab StudioのAI機能を強化し、実験プロトコルの自動最適化や、実験結果に基づく次実験の自動提案といった高度な機能を順次実装していきます。
中長期的には、海外拠点の展開も計画しています。特に米国市場においては、クラウドラボの利用が急速に拡大しており、日本発のプラットフォームとして参入するための準備を進めています。
「世界中の研究者が、いつでも・どこからでも・オンラインで実験できる研究インフラ」 --その実現に向けて、Tsubame Labは挑戦を続けてまいります。
 
お問い合わせはこちらよりお願いいたします:
https://tsubamelab.com/%E3%81%8A%E5%95%8F%E3%81%84%E5%90%88%E3%82%8F%E3%81%9B/

Tsubame Labは、この「ラボオートメーション」と「クラウドラボ」を日本で初めて統合的に展開するスタートアップです。