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「新産業共創事業」の最終報告会で集まった約80人に対し、「微生物セルロースを原料とするマイクロ繊維の開発」について報告する北海道大学の高濱氏=坂井市のSAKAI WEAVE |
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地元の研究機関も助言、ユニーク開発に大きな期待感も |
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SAKAI WEAVEのロゴマーク |
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優れた技術力を持つ福井の地元企業と革新的なアイデアや研究開発力を持つ県外のスタートアップ企業や起業を志す研究者をマッチングさせることで新産業を生み出す福井県坂井市の「新産業共創事業」の初年度成果発表会が3月17日、同市春江町の拠点施設「SAKAI WEAVE(サカイ・ウイーブ)で行われた。この事業の坂井市のパートナー企業「ReGACY Innovation Group(レガシー・イノベーション・グループ=本社・東京、以下レガシー社)」が、全国から誘致した県外3社2大学の5事業者が、昨年夏以来の約7カ月に渡って取り組んだ実証実験や試作、構想などを報告した。 |
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5事業者が取り組む研究・開発テーマは「繊維」と「ドローン」で、繊維については2社1大学が、またドローンは1社1大学が取り組みを紹介した。まだ事業開始から約7カ月間と短い期間での活動ではあったが、5事業者が地元企業をはじめ、国の産総研や県工業技術センター、福井大学など研究機関と盛んに意見交換やヒアリングされている様子も伺えた。
また実際に福井空港(坂井市春江町)でドローンを使った飛行実験や、間伐材から生まれた「木糸(もくいと)」でTシャツや肌着の試作品を作ったケース、新しい繊維素材として将来性が期待される微生物セルロースでの福井大学や地元企業との連携なども報告された。会場には、池田禎孝市長をはじめ、発表者を含め関係者約80人が集まり、スタートアップと地元企業の連携やプロジェクトがどう進んでいくのか、興味深そうに傾聴していた。 |
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★2025年度坂井市に採択されたスタートアップ・研究者5者の事業・研究概要★ |
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【採択者(都道府県):事業・研究の概要】 |
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■事業・研究テーマ=繊維 |
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(1)HIRAXIS(福岡県):間伐材を原料とした天然繊維の「木糸」および、独自の天然素材による製品の開発 |
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(2)北海道大学(北海道):農業副産物原料の微生物ナノセルロースの生産を行う、繊維強化プラスチックの補強材やアパレル繊維などの用途へ展開 |
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(3)Amateras Space(東京都):船内・船外宇宙服の研究開発・社会実装及び宇宙における生体情報プラットフォームの実用化 |
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■事業・研究テーマ=ドローン |
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(4)サイトセンシング(東京都):「災害時避難者追跡システム」の実用化、独自の測位技術を用い、GNSSの有無に関わらず人々の測位を可能にする |
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(5)金沢工業大学(石川県):高ペイロード(50kg)積載かつ50kmの長距離航行が可能なドローンを用いた運搬作業、物流業務のサービス展開 |
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発表の中で、繊維分野では、北海道大学工学研究院招えい教員の高濱良氏が「微生物セルロースを原料とするマイクロ繊維の開発」と題して発表。バイオ技術によって微生物が生み出すセルロースを素材として「シート化」、「繊維化」する技術を事業化・ビジネス化しスタートアップ企業を目指すもので、高濱氏は「繊維に関しては、実は北海道大学に研究としてのベースが全然ない状態から始めた。
とりあえず繊維はつくれるんだが、どうしたらいいのか分からなかった」と話し、優れた素材を持ちながら手詰まり状態だったところへ、この新産業共創事業の誘いがあって、坂井市の繊維ネットワークとの連携で、具体的な事業化への道が開き始めたという。
昨年7月から18件のヒアリングを行い、3分の1以上は福井県内の企業や研究機関で、特に繊維化では坂井市に本社を置く炭素繊維開発の「丸八」や福井大学の先端繊維工学研究分野の助言を受けながら、実証を続けて「セルロ-ス繊維の特性を生かした商品化、ニッチ市場の開拓を目指したい」と説明した。また今後の方向性では、セルロースのシート化でも、坂井市内で量産化に向けたサンプルの製造試験を行っていく考えを示した。
他の繊維関係では、HIRAXIS(ヒラクシス)社が地元のアサヒマカムと木糸の織りで生地生成を目指すほか、宇宙服研究開発のAmateras Space(アマテラス・スペース)社は、坂井市内で素材繊維企業や産総研と連携し、スマートテキスタイルによるセンシングシーツの開発などの取り組みや構想を報告していた。 |
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(写真上)福井空港でドローンの飛行試験を行う金沢工大のスタッフ。(写真中)坂井市内のショッピングセンターアミで独自のシステムによる実証を行うサイトセンシングの平林社長。(写真下)宇宙服の研究をベースに、スマートテキスタイルの開発などを報告するAmateseras Spaceの蓮見社長 |
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一方、「ドローン」の発表では、有翼機型VTOL(垂直離着陸機)を採用し、50kgを搭載しつつ50km航行可能な運搬ドローンを構想する金沢工業大学航空宇宙工学科の赤坂剛史教授が、3月10日に行った「福井空港での飛行試験」を報告。空港を管理している数々の国の機関との協議、手続きを坂井市とも協力してクリアしながら、何とか飛行試験に漕ぎつけたものの、この日は悪天候などから、十分に飛行できずデータ入手できなかったことを明かした。
しかし「福井空港の滑走路を使い、天候などの条件が整えば、ドローン飛行が十分できることが分かった」と、今後の実験続行に期待を持たせた。赤坂教授は「福井空港での飛行実験は、反響も大きく、『福井空港でドローンが飛ばせるのか』などの問い合わせメールがうちに相次ぎ来たことから、「ドローンを飛ばせる空港は全国的に数少ないので、福井空港は今後、関係企業や研究者から注目されるだろう」などと語った。 |
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また同じドローンのテーマでは、「サイトセンシング」社の平林隆代表取締役社長が、同社の非GPS環境下測位システムを駆使し、来場者に小型チップを持たせて、独自のビーコンを活用して、来場者の回遊動向を調査する実証を行ったことなども発表していた。この実証は、災害時に大型ショッピングセンター内での人の動向把握や避難誘導に有効とされている。 |
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発表の後は、産総研北陸デジタルものづくりセンターの芦田極所長ら3人が登壇。5事業者の発表について「今日の皆さんの発表を聴いて、『まずこれをやりたいんだ。無理難題や困難があってもやりたい』という思いを感じた。日本のものづくり技術は早過ぎて、産業化や市場化が待てないケースが過去にあったが、皆さんはその頑張り、粘り強さですね、諦めない、そこがこれからも徹底してやっていただきたい。非常に今日は感銘を受けました」とスタートアップや地元企業に激励のエールを送っていた。 |
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「誘致したスタートアップに、地元にない研究・開発を期待」 |
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新産業共創事業担当 坂井市企画政策課 長谷川大志さんに聴く |
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坂井市企画政策課 長谷川 大志さん |
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―そもそもこの事業、他で行われているスタートアップ育成や起業家講座とはどう異なるのか? |
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長谷川 最近、あちこちの自治体や商工団体が展開している各種事業は、基本的に地元の人間を掘り起こして起業家に仕立てるのが主眼。この事業は有望なスタートアップ企業を全国から連れてきて、地元企業と組みながら「研究・開発」を主にやってもらう。首都圏にいて坂井市の会社と連携や共同開発ではなく、それらの企業に坂井市に根付いてもらいます。もともと地元にある中小の製造業などは、目の前の生産や製造に手いっぱいで「研究・開発」まで手が回らないというところも多い。 |
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逆に、来てもらうスタートアップは「研究・開発」に特化した企業が多く、そこを上手にマッチングさせ、事業なり商品なりが開発できたらいい。「新産業」を興すのは大分、先になるかも知れないが、そうした動きが他の企業の刺激になったり、地元で何か面白い化学反応が起こせるかもしれない。それが文字通り「共創」だと思っています。 |
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―スタートアップは“仲介役”のコンサルティング・ベンチャー・キャピタル(VC)「レガシー・イノベーショングループ」(東京都千代田区)が誘致するが、過去に成功した実績はあるのか? |
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長谷川
レガシー社自体が発足まだ5年目。この事業開始時点での実績は竹原市(広島県)で同じ事業を先行してやっているぐらいで、ほかの地域では坂井市同様に、これから事業が始まるタイミングでした。ただ、桶谷取締役は国内のベンチャー・キャピタルやスタートアップ支援機関での経験もあり、スタートアップの出資・成長支援で関わってきた人物。またレガシー社としてはスタートアップやこの事業で生まれた新会社に投資するわけですから、単なるコンサルタント業とは違う。
実際、今回の事業には国の交付金を活用しているが、レガシー社自体もこの事業拠点設置費用を負担していますし、社の人材を張り付けて“伴走”もしている。さらに事業を進めるに当たって、地元のいくつかの繊維関係の企業、さらに産総研、県工業技術センター、ふくい産業支援センター、県立大学などとも連携をとって、進めていく研究・開発がちゃんと妥当なものか、地元とのマッチングはこれでよいか、など助言をもらおり、拠点運営や誘致したスタートアップへの出資を通じて、ともにリスクを取りながら、事業推進を主導するパートナーとして関与してもらっています。 |
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―初年度、「繊維」と「ドローン」の分野で5つのスタートアップ企業や研究機関を連れて来て取り組みが始まっている。現時点で5者(3企業・2大学)の評価はどうか? |
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長谷川 事業はまだ始まったばかりだが、誘致者5つのうち候補で言うと、4者は坂井市で起業したり、支社を置くなどの定着の可能性はある。特に4者のうち2者はうまくいく感じがあります。ただ、僕らがこの事業で重要視している「坂井市の産業にどれくらいの影響を与えられるか」の視点ではまだ目に見える成果は少ないので、今年度作り上げた事業基盤を活用し、これからの活動に期待した。 |
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―坂井市には「繊維」は産業として企業群がそれなりにあるが、共創事業の分野で「ドローン」は意外。新産業を興すというより、福井空港という地域資源を生かすとの考えからか? |
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長谷川 僕ら自身も最初は意外でした。しかしドローンは将来的に大きな産業の芽となる可能性を秘めている、国交省なども国産ドローンを増やそうとしており、開発の方向性のベクトルが時流に合っている。レガシー社も非常に前向き。先日あった空港現地での飛行実験にも、30人ものステークホルダーが来場、僕ら自身もその関心の高さに驚かされた。普段、定期便が飛んでいない空港だが、空港ビルも近くリニューアルするので、この事業でどんな芽が出るか期待している。 |
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「スタートアップと地域をつなぐ存在として」 |
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ReGACY Innovation Group 坂井市担当コンサルタント 元崎直美さんに聴く |
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―あなたは東京から移住までして、新産業共創事業を推進するメンバーとか…坂井市春江町に構えた新産業事業の拠点「SAKAI WEAVE」の態勢と役割を教えてほしい。 |
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元崎 この事業は弊社では自治体向けプロジェクトに当たり、プロジェクトオーナー(責任者)をトップに、その下に実行役のプロジェクトマネージャー、その下に会社の肩書的には「コンサルタント」の私が推進メンバーとしている。 |
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ReGACY Innovation Group 元崎 直美さん |
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レガシー社としては3名だが、拠点運営に優れている弊社が出資先のスタートアップの1つである「ATOMica(アトミカ)」のスタッフ2人もおり5人のチーム。拠点には常にアトミカの2名が常駐しており、私のプロジェクトの推進メンバーとして自ら希望を出してこの地域に移住し、活動している。 |
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拠点の役割は、1つは、誘致してきたスタートアップのミーティングや作業空間、居心地がいい場所にすること。2つ目はスタートアップと対話する地元事業者さんのための施設。優れた技術力を持っていながら、時代の流れによってそれまでの業務委託の仕事が減り、新事業を創っていきたいと考える企業、事業所も多い。皆さんの相談相手、駆け込み寺的な位置づけとしたい。3つ目は、スタッフが常駐することで、スタートアップと地元事業者の交流や対話を日常的に打ち出し、1つ目、2つ目の機能を掛け合わせながら、新たな事業や共創が生まれる拠点とすること。 |
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―新産業共創とは、あまり全国にもないユニークな事業だが、どのような仕組みで、誘致するスタートアップ企業はどのように決まるのか? |
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元崎 まず先に坂井市の産業特性を詳しく調べた上で、誘致のためのテーマを決めています。令和7年度は「繊維」と「ドローン」。坂井市には繊維産業が集積していること、ドローンは近隣の研究機関で有望な研究者がいること、福井空港があることが大きな理由。誘致するスタートアップは、なるべく初期段階の企業、または研究段階で起業する前ぐらい。樹木に例えると、ちょっと芽が出てきた苗木のような段階のスタートアップ。ある程度、育った木は既に他のエリアに根を張っているケースも多いから、移植は難しい。優れた技術力を持ちながら、そうなる前のスタートアップか、起業直前の研究者を坂井市に連れてきて起業させたい。 |
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そのためには、先ほど話したように、会社として誘致に適した段階であることに加え、事業内容も誘致に適した会社であることが大切です。例えば、アプリ開発などのデジタル技術を中心としたスタートアップだと、首都圏以外の地域で活動する意義を作りにくいですが、装置や機械、一定規模以上の研究施設などを用いて事業開発を進めるタイプのスタートアップであれば、設備設置や実証が必要となるので、地方で事業開発を行う意義を生みやすいです。
弊社は、全国の大学で起業を志す研究者の伴走支援を行っているチームがあるので、事業化の種となる、有望な研究を数多く知っており、また、研究開発・事業開発への伴走支援の実績も豊富にあるため、この地域に適したスタートアップや起業を志す研究者を呼んできて、伴走支援により地域の企業との協業事業も作り、継続的に坂井市で活動する意義のある事業を作っていくことができます。スタートアップと坂井市という地域の両方を知っている私たちの存在が、両者の橋渡しになれたら嬉しいです。 |
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―昨年8月のキックオフから実証事業が始まったが、順調に進んでいるか?現時点で坂井市に定着できそうなスタートアップはいくつありそうか。また今年度も新たにスタートアップ予定通り誘致できるのか。 |
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成果発表後、池田市長を中央に記念撮影に収まるスタートアップ5事業者の代表、コメンテイターたち=3月17日、坂井市のSAKAI WEAVE |
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元崎
先日の成果発表会を終えた感触では私は、5事業者のうち4つは、何からの事業で坂井市に定着できるとみている。当初は1つのスタートアップに1つの地元企業を想定していたが、今は1つに対し複数、また誘致したスタートアップ同士でのつながりもできた。坂井市や県内の地元企業20社以上と接触しているのだが、それだけ繊維関係など積極的にこの事業に関心を持っているからだと思う。
地元のアサヒマカムとHIRAXISでは8月のキックオフの段階から協業に合意し、実証事業が始まっていたが、このチームだけでなく他の採択事業者についても、1事業だけでなく、いろんな観点からの事業やプロジェクトが組めそうで、数年後のクラスター誕生にも期待している。「繊維」と「ドローン」をテーマに活動したのは、私は成功だったと感じている。 |
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―計画では、2026度も5、6事業者のスタートアップを誘致するのは間違いないか。 |
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元崎 はい、その予定取りです。26年度もスタートアップ・研究者を本事業への採択という形で決め、市内での事業継続、将来的な拠点設置や雇用の創出を目指していく。テーマについては「繊維」と「ドローン」を軸としつつ、本年度の実証成果を踏まえてテーマの解像度を高め、より適切なスタートアップの採択につなげていきたい。追加テーマの検討も含め、今後精査していく。実際に誘致するスタートアップの発表は今年の7、8月ごろになると思う。 |
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