一般財団法人川村文化芸術振興財団による文化助成活動
一般財団法人川村文化芸術振興財団(理事長 川村喜久)では、ソーシャリー・エンゲイジド・アートに対する支援助成事業を2017年に開始し、2025年は9回目となる2026年度の公募を行い、審査を行いました。
 
2026年度は、国際情勢の緊張の高まりからテーマ部門「戦争と平和」を新設、従来の自由部門と共に事業を募集し、ソーシャリー・エンゲイジド・アートを通じて「戦争や平和に対するテーマ」、「国境や移民に注目するテーマ」、「コミュニティのあり方に関するテーマ」などを取り上げるプロジェクトが日本国内外から82件(海外3件、国内79件)の応募がありました。今回選ばれた事業は、このような現代社会に目を向けテーマ設定された9件の多様な事業が応募の中から採択され、2026年度に発表していただきます。また、2023年度から開始した長期支援助成の事業1件「Don’t Follow the Wind(ドンド・フォロウ・ザ・ウィンド)」も継続支援となります。
コミュニティや社会にコミットし、地域社会や住民とともに制作や活動を実施し、より良い社会モデルの提示や構築を目指す日本国内で実施されるソーシャリー・エンゲイジド・アートプロジェクトがより活発化していくことを願います。
◎採択団体
2026年度助成対象プロジェクト(全10件のプロジェクト)
■単年度支援助成額:30万円~150万円/件 総額:560万円
■長期支援助成額:50万円/件 ※2023年度から継続支援
 
《単年度支援助成》
山本高之「創造的であること, 共有, 対話的であること(条件あり)ー制度的無責任の演劇的再演と映像による可視化の試みー」
小田原のどか「被差別部落の歴史・記憶とその継承をめぐる触覚的実践」
深澤孝史「佐渡もう一つの世界遺産推進センター」
堺国際市民劇団「過去・現在・未来の戦争被害者たち~ヴォイシィズ・オブ・ヴィクティムズ」
KANTO(佐藤浩一+ARCHIVE)「不可視のエコロジーを可視化する」
藤本純矢「LIVE DieAter『沈黙にふれる、声の触卓』」
徐秋成「あなたたちはわたしたちをどう見ているのか?何を思っているのか?」
齊藤幸子「クルド人女性と表現を通してつながる」
社会彫刻の夕べプロジェクトチーム「社会彫刻キャラバン」
 
《長期支援助成》
Don’t Follow the Wind「Don’t Follow the Wind」
 
◎審査員 ※長期支援助成は除く
工藤安代(NPO法人 ART&SOCIETY 研究センター 代表理事)
小泉明郎(アーティスト)
藪前知子(東京都現代美術館学芸員)
山本浩貴(文化研究者、アーティスト、実践女子大学文学部美学美術史学科准教授)
 
◎採択団体および活動イメージ(単年度支援)
撮影:加藤甫
採択者:山本高之
映像、ワークショップ、インスタレーションなどを通じて、「知るとはどのような経験か」「理解が成立する以前の状態はいかに現れるか」を主題に実践を行う。未知や不確かさに触れる瞬間に着目し、アートとラーニングを往還しながら制作を展開する。
採択事業名:創造的であること, 共有, 対話的であること(条件あり)ー制度的無責任の演劇的再演と映像による可視化の試みー
本プロジェクトは、日本の地方都市にある美術館で起きた騒動を起点に、開示請求によって公開された資料や記録を手がかりとして、組織や制度のなかで責任がどのように扱われ、見えにくくなっていくのかを考える芸術実践である。告発や断罪を目的とするのではなく、アカウンタビリティの否認という態度が人や社会に及ぼす影響を捉え直すことに主眼を置く。制作過程では、社会学、法律、美術史など異なる専門領域の視点を参照しながら、資料の読解、再演、対話を重ねていく。そこで得た知見を、映像やパフォーマンスなどの表現を媒介として社会に共有する。最終的には、公共の美術館で起きた騒動が棄損した社会の傷を癒し、未来におけるアートと社会の関係を探る。
 
採択者:小田原のどか
1985年宮城県生。彫刻家、評論家。芸術学博士。主な個展に国際芸術センター青森、つなぎ美術館など。主な著作に『近代を彫刻/超克する』(講談社)、『この国(近代日本)の芸術:〈日本美術史〉を脱帝国主義化する』(山本浩貴との共編、月曜社)など。2023年に「不可視化への抵抗:〈世系と職業に基づく差別〉と〈日本美術史〉」研究会を発足、『建築ジャーナル』2025年9月号大阪住吉地区特集、水平社博物館「西光万吉の表現」展を企画する。
https://odawaranodoka.com/
金城実《住吉の歴史》
採択事業名:被差別部落の歴史・記憶とその継承をめぐる触覚的実践
「被差別部落」として差別を受けた歴史を持つ大阪市住吉地区は、これを克服するために1973年に「6つの原則」を定め、住民による「人権のまちづくり」を実践し続けています。77年の沖縄出身の彫刻家・金城実による《解放へのオガリ》の完成を経て、金城と地域住民たちの彫塑運動が展開され、《住吉の歴史》がつくられます。こうした彫刻群とともに、住吉には女性たちによる表現の蓄積があります。住吉地区に蓄積されている数々の表現に、視覚だけではない触覚によるアプローチと、現代美術の手法を介して新たな息吹を付与し、その方法の確立と地域との対話の積み重ねをもって、被差別の歴史を有する地域とアーティストとの協働のロールモデルとなることを目指します。
 
採択者:深澤孝史
1984年、山梨県生まれ、美術家。2024年より「アケヤマー秋山郷立大赤沢小学校ー」(大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ拠点)監修。2011年より「とくいの銀行」(取手アートプロジェクト他)を開始。2025年に佐渡鉱山の朝鮮人労働者を佐渡に呼び平和活動を行ってきた人たちの記録映像と佐渡に残る金堀節を朝鮮語訳し唄った映像作品《佐渡、もう一つの世界遺産/プドゥロㇷ゚ッケ(やわらぎ)》を発表。その他、アートプロジェクト多数展開。
https:// fukasawatakafumi.net
「佐渡、もう一つの世界遺産/プドゥロㇷ゚ッケ(やわらぎ)“Sado, Another World Heritage / Puduroppke (Yawaragi)
採択事業:佐渡もう一つの世界遺産推進センター
2024年に世界遺産登録された「佐渡島(さど)の金山」は江戸期に限定されていますが、本来は近代の植民地主義や朝鮮人労働の歴史も直視すべきです。本プロジェクトは、忘れ去られつつある負の歴史を究明してきた佐渡の人々の平和活動や慰霊の意思こそ、世界遺産の理念に相応しいと考えます。2025年、金山の労働歌を朝鮮語に翻訳した慰霊の唄を制作。同時に、1991年の名簿発見から続く市民による調査や、韓国の当事者との交流を記録した映像作品を制作しました。江戸期の無宿人、近代の朝鮮人労働者が生きた歴史を大切にした郷土史家・磯部欣三の視座も継承し、展示拠点を設置。埋もれた資料を公開し、共に追悼する場を作る実験事業を展開します。
 
採択者:堺国際市民劇団
「No Hate. No Border.」を掲げ、差別のない社会と、100年後の子供たちのために堺を芸術都市とすることを目指し、地域の課題をアートの力で解決するコミュニティアートを志し2019年に設立。障がいの有無、年齢、性別、国籍関係なく誰もが参加できる劇団=「社会包摂」、海外アーティストとのコラボレーションと海外演劇祭への参加=「国際交流」、堺の歴史、神話、人物を題材とした作品を創作=「地域貢献」を三本柱として活動を続けてきた。
採択事業:過去・現在・未来の戦争被害者たち~ヴォイシィズ・オブ・ヴィクティムズ
「殺される側」から戦争を問い直す演劇プロジェクト。過去や現在進行形の戦争被害の記憶は日々私たちの社会から消え去ろうとしている。二度と戦争に向かわないように、そして現在起きている戦争の停止を目指し、私たちのプロジェクトは、「殺される側」の言葉、告発、記憶を演劇という手法を用いて社会に訴える。演劇は物言わぬ死者を代弁する機能を持っている。今回、私たちは様々な立場の「殺される側」、独裁政権の弾圧に苦しむバングラデシュ、ミャンマーのアーティストらや、戦争が起きれば真っ先に切り捨てられ迫害される障碍者、在日らによるコラボレーションを行う。多角的に響かせることで、より強烈にメッセージを皆さんに届けたい。
 
KANTO(佐藤浩一+ARCHIVE)
日本の関東地方を拠点に、その環境・歴史・産業・芸術に関するリサーチや創造を行うプロジェクト。東京の武蔵野エリア在住のアーティストの佐藤浩一と、学術プロジェクトARCHIVE(代表:オカモト ヒロヤ、岡村皓史、広本拓麻)を中心に発足。主な活動として、「水の博物館」展(2025年。トーキョーアーツアンドスペース)、「武蔵野の見えない自然」(2026年。武蔵野プレイス)など。
KANTO:https://kanto.tokyo/
佐藤浩一:https://koichisato.org/
ARCHIVE:https://www.project-archive.org/
採択事業:不可視のエコロジーを可視化する
耐熱性と撥水性に優れ、フライパンから核ミサイルまで数多くの製品に使われてきた化学物質「PFAS」。自然界で分解されにくい「永遠の化学物質」がいま、世界各地で健康被害と環境問題を引き起こしています。
KANTOが活動拠点とする東京・武蔵野でも、住民参加の大規模な疫学調査によって、主に米軍・横田基地から漏出したPFASが武蔵野台地の地下水を伝って生活水に浸透し、住民の血液にまで拡散している状況が明らかになりました。
本プロジェクトでは、この公害が映す都市の不可視のエコロジーに迫り、コミュニティの新しい風景を住民とともに探ります。その成果は、多様な媒体を通じて地域に共有していきます。
 
採択者:藤本純矢
1986年岡山市生まれ。大学で臨床心理学を専攻。映画会社を経て独立し、社会包摂を掲げたカフェを運営。現在は福祉事業の会社に勤務しながらも、一貫して精神疾患をテーマにした映画製作を継続し、映画祭を中心に発表。自身の活動を通じ、生きづらさと社会を滑らかに繋ぐ場のあり方を模索している。当事者の声なき声が失われない奪われない空間づくりを大切に、等身大のまなざしで表現活動を続けている。
https://glutenfreeter.wixsite.com/fujimoto-a
採択事業:LIVE DieAter『沈黙にふれる、声の触卓』
摂食障害の当事者による「自助会」をライブ配信し、芸術と社会的実践の融合を試みるプロジェクト。核となるのは、孤立した個人の苦しみ(モノローグ)が、安全な対話を通じて他者と共有され、自己肯定的な物語(ナラティブ)へと変容するプロセスの可視化である。編集のない生配信という形式により、ありのままの言葉が響き合う「場」を設計。オープンダイアローグの手法を導入し、参加者を「共同制作者」として尊重する倫理的な対話を追求する。特に可視化されにくい摂食障害当事者の声なき声を、アートの力で公共空間に開き、社会と接続される新たな連帯の形を提示する。孤独を抱える人々へ、「一人ではない」という確信を届けるために。
 
クレジット:芝田日菜
採択者:徐秋成
多摩美術大学メディア芸術コースを卒業、東京藝術大学大学院先端芸術表現科を修了。ポストメモリー、死生観をテーマに、主にゲームエンジンで映像やゲーム、演劇の手法で表現する。最近の展示に:2025年BugArtAward ファイナリスト展、「夢をみる、さいたま、仮に」、Edit Room「また行ってはいけないところにたどり着いた」など。
舞台出演:宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓(チェルフィッチュ)
https://www.instagram.com/bzufr/
採択事業:あなたたちはわたしたちをどう見ているのか?何を思っているのか?
日本に暮らす様々なルーツを持つ人々ーー主に日本語を母語としない外国人とクィアを対象に、読書会や演劇ワークショップを実施し、マイノリティとしての日本での生活経験を共有しながら、共同制作を行うことを目的とするプロジェクト。多様な言葉や多層の記憶、身体の振る舞いを手がかりに、今の日本社会の見えにくい構造に光を当ててみます。
「この言葉は誰の言葉なのか」「自分の身体は本当に自分の身体なのか」という根底的な問いを探りながら、日本社会における自分のあり方も探します。制作物については、匿名性を重視し、モーションキャプチャとデジタルアバターを用いて、アーカイブし将来的にはデジタル映像演劇に制作して発表ことも考えてます。
 
採択者:齊藤幸子
写真家。日本大学芸術学部写真学科卒業。リサーチや聞き取りを通し、語られることのない個人の記憶や感情、社会的背景を作品にしている。2018年から埼玉県のクルド人についての作品を制作。2020年「第22回写真1_WALL」ファイナリスト、2021年「Portrait of Japan」グランプリ(片山真理選)、2025年アーティストブック「Not now but one day」がアンリ・カルティエ=ブレッソン財団自費出版写真集賞ショートリスト。
https://sachikosaito.com
採択事業:クルド人女性と表現を通してつながる
作家は写真家として埼玉県川口市のクルド人コミュニティと関わってきた。コミュニティ内は家父長制が強く、女性が家から出ないので日本人との関わりを持てず地域と馴染めないという現状がある。女性たちは自分たちの可能性に気づかず、内にこもってしまうことも多い。しかし近年、彼女たちにも変化が訪れている。多くの女性たちがトルコで学校に行けなかったことから、学校に通う人が出てきた。また絵や歌を通して、自分の文化を伝えようとする人もいる。家族のケアの役割を担ってきた女性たちが自立したいと思うようになっている。このプロジェクトは、彼女たちが自らを表現する手段を見つけ、自信を持って多様な交流をする機会や場をつくるための試みである。
 
採択者:社会彫刻の夕べプロジェクトチーム
2019年7月、女子美術大学の学生相談室を拠点に、芸術と社会について対面で語り合う場「社会彫刻の夕べ」が誕生した。ヨーゼフ・ボイスの「社会彫刻」の概念に着想を得て、誰もが社会を形づくる主体であるという考えのもと、美術の実践/理論を学んだメンバーによるプロジェクトチームとして活動している。2020年以降は「オンライン彫刻」として継続し、対話の場を組み込んだ展覧会やアートブック制作を通じて、学外へも実践を広げてきた。
採択事業:社会彫刻キャラバン
全国の大学を巡り、学生支援の現場やゼミなどを訪ねながら、障害のある人の学びや暮らしをめぐる課題を、映像上映・対話・ワークショップ・リーフレットを通して教職員・学生と共に考えるアートプロジェクトである。関心を寄せた大学との対話を経て開催を決め、各地で実施する。上映映像では発達障害に特化し、「社会モデル」をベースに、特性を「グラデーション」として捉える視点も重視し、決して容易ではない「共生」をいかに実現するかを問う。当事者/非当事者という区分が揺らぐ場と協働し、支援や制度の現場で見過ごされがちな違和感に光を当てる。巡回後には成果共有の場を設け、実践の広がりにつなげていく。
 
 
ソーシャリー・エンゲイジド・アート支援事業
一般財団法人川村文化芸術振興財団
https://www.kacf.jp/