日本医療政策機構(HGPI)では、医療政策のオピニオンリーダーやイノベーターを招き、さまざまな医療政策のテーマに関するセミナーを開催しています。
第142回HGPIセミナーでは、筑波大学医学医療系准教授であり、日立総合病院で腎臓内科の専門医として臨床の最前線に立つ永井恵氏をお迎えしました。永井氏は、日本透析医会における「Green Dialysisワーキンググループ」の委員長を務めるなど、医療の持続可能性を追求する国内の第一人者です。
 
本セミナーでは、2026年の「世界腎臓デー(World Kidney Day)」のテーマである「すべての人の腎臓に健康を:人々のケアと地球の保護を両立する(Kidney Health For All - Caring for People, Protecting the Planet)」を軸に、腎疾患対策と「プラネタリーヘルス(地球規模の健康)」がいかに密接に関わっているか、そして医療現場から取り組むべき変革について、ライフサイクルアセスメント(LCA: Life Cycle Assessment)等の最新の研究データを交えて詳細にご講演いただきました。
ポイント
慢性腎臓病(CKD)の深刻な実態と日本人の脆弱性:国内のCKD患者数は約2,000万人に達し、成人5人に1人が罹患する「国民病」となっている。特に日本人では、ほかの集団と比較して生まれ持ったネフロン(腎臓の基本単位)数が少ない可能性を示唆する研究もあり、生活習慣病による重症化リスクが高い可能性が指摘されている。
医療経済への巨大なインパクト:末期腎不全患者の治療費は1人あたり年間約400万~600万円にのぼり、国内の透析医療費の総額は約1.6兆円と推計される。これは国家の社会保障費においても極めて大きな割合を占める課題である。
透析医療が環境に与える甚大な負荷:血液透析(HD)は、1回あたり約120L以上の浄化水と多量のエネルギー、使い捨ての資材を消費する。LCAを用いた算定により、日本の施設血液透析は1人1年あたり約4.1 t-CO2eq(二酸化炭素換算)のカーボンフットプリントを排出しており、これは一般的な医療サービスのカーボンフットプリントと比較して約20倍に相当する。
「薬剤」に潜む最大のインパクト:環境負荷を構成する要因(移動、水、電力、医療資材、薬剤)を分析した結果、温室効果ガス排出量および水消費量(ウォーターフットプリント)のいずれにおいても「薬剤」の製造・流通プロセスによる負荷が最大であることが判明した。
究極のグリーン・ネフロロジーは「腎機能の維持」:透析導入後の環境負荷は未導入の状態と比較して10倍以上に跳ね上がる。早期発見と進行抑制によって「今、目の前にある腎臓を守ること」こそが、未来の地球を救うことに直結する。
医療者の負担軽減と制度的インセンティブ:環境配慮を現場に浸透させるためには、スタッフの「情熱」に頼るだけでなく、診療報酬等の制度的インセンティブを通じて人材確保を可能にする仕組みを構築し、多忙な現場の負担を相殺する議論が不可欠である。
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【開催概要】
■日時:2026年3月10日(火) 16:00-17:15 
■形式:オンライン(Zoomウェビナー)
■言語:日本語
■参加費:無料
■主催:日本医療政策機構(HGPI)
【登壇者プロフィール】
永井 恵(筑波大学医学医療系 准教授)
腎臓内科の臨床医・研究者として、慢性腎臓病(CKD: Chronic Kidney Disease)および透析医療に携わる。日立総合病院 腎臓内科 主任医長、筑波大学附属病院 日立社会連携教育研究センター 准教授を兼任し、地域医療と大学教育・研究の橋渡しにも取り組む。近年は、従来のCKD・透析領域の臨床研究に加え、グリーン・ネフロロジー(Green Nephrology)やグリーン・ダイアリシス(Green Dialysis))として知られている環境配慮型の腎臓医療をキーワードに、透析医療の水使用・エネルギー消費・廃棄物等の環境負荷評価と改善策の検討を進めている。日本透析医会 腎不全対策委員会CKD対策部会 Green Dialysis WG 委員長として、現場実装を見据えた議論をリード。また、2024年8月より国立環境研究所 資源循環領域 客員研究員として、医療と資源循環・環境負荷低減をつなぐ学際的研究にも従事。診療指針づくりの面では、日本腎臓学会のCKD診療ガイドライン関連委員としても活動している。
■日本医療政策機構とは: https://hgpi.org/
日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)は、2004年に設立された非営利、独立、超党派の民間の医療政策シンクタンクです。市民主体の医療政策を実現すべく、独立したシンクタンクとして、幅広いステークホルダーを結集し、社会に政策の選択肢を提供してきました。特定の政党、団体の立場にとらわれず、独立性を堅持し、フェアで健やかな社会を実現するために、将来を見据えた幅広い観点から、新しいアイデアや価値観を提供しています。 設立以来、女性の健康、がん対策、認知症、薬剤耐性、再生医療、グローバルヘルスなど、当時は十分に議論されていなかったテーマをいち早く政策課題として提示し、法制度や国家戦略の形成、国際的な政策議論に反映されるなど、具体的な政策の前進に寄与してきました。こうした継続的な取り組みは、国内外の政策関係者や国際機関からも一定の評価を受けており、日本発の医療政策シンクタンクとして国際的な対話の場に参加し続けています。
日本国内はもとより、世界に向けても有効な医療政策の選択肢を提示し、地球規模の健康・医療課題を解決すべく、これからも皆様とともに活動を続けていきます。