MiZ株式会社(神奈川県鎌倉市)は、1991年の創設以来、「生体における水素の安全利用」をテーマとして研究開発に取り組んできました。これまでに50報以上の学術論文を発表するとともに、関連技術について複数の特許を取得しています。
同社は、水素ガス吸入が脳卒中後遺症の抑制に寄与する可能性に関する特許を取得しています(注1)。
この研究は、水素の生体内での作用機構に着目し、脳卒中後の神経障害を軽減できる可能性を示すものとして、日本脳卒中学会学術集会において報告されています(注2)。
また同社は、2026年1月、高濃度水素吸入器の使用に伴う人体内での水素爆発事故と、安全な低濃度水素吸入療法の重要性を指摘する報告を、査読付き国際医学誌 International Journal of Risk and Safety in Medicine に発表するとともに(注3)、高濃度水素吸入の危険性に関する一般への啓発活動を開始しました(注4)。
MiZ株式会社は、これらの研究成果を踏まえ、爆発リスクのない安全な濃度で水素を生体利用するという考え方を「スマート・メディスン(Smart Medicine)」として提唱しています。
また、「脳卒中」とは、脳の血管に異常が生じることで脳の機能が突然障害される病気の総称であり、「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」などが含まれます。
脳梗塞では、血栓などにより脳の血流が停止することで脳組織が低酸素状態に陥り、神経細胞のミトコンドリア機能障害が生じます。その後、血栓溶解療法などにより血流が再開すると、脳内に酸素が再び供給されますが、この過程でミトコンドリア機能障害に起因してヒドロキシルラジカル(・OH)と呼ばれる極めて反応性の高い活性酸素が大量に発生します。このヒドロキシルラジカルは、核酸やタンパク質、脂質など生体を構成する分子を無差別に酸化し、脳組織に炎症や損傷を引き起こします(図1)。この現象は虚血再灌流障害と呼ばれ、脳梗塞後の高次脳機能障害や麻痺などの後遺症を引き起こす最大の原因と考えられています。
したがって、虚血再灌流障害の原因物質であるヒドロキシルラジカルから細胞を構成する物質への攻撃を如何にして抑制するかが、脳卒中後遺症の予防と改善のための重要な課題となります。
図1 脳卒中(脳梗塞)後遺症のプロセス:血栓により脳血管の血流が停止すると、血栓から先の脳組織に血流が行かなくなり酸欠状態になります。酸欠状態が長くなるとミトコンドリアの機能障害が進行します。同時にカタラーゼなどの抗酸化酵素の変性も進行します。医療処置によって血流が再開すると、酸欠状態だった組織に酸素が豊富な血流が流れ込みます。機能障害を起こしたミトコンドリアは酸素を活性酸素(ROS)に変換します。ROSのうち酸化活性が強いヒドロキシルラジカル(・OH)が大量に発生し、核酸(DNA)、タンパク質、脂質を攻撃します。その結果、細胞障害や炎症が起こり、脳組織の損傷が進行し、麻痺や高次脳機能障害といった後遺症を引き起こします。
脳卒中を含む脳神経疾患の医薬品の創薬には4つの大きなハードルがあります。
水素はヒドロキシルラジカルと反応して水分子に変換することができます。また、水素分子(H2)は体積が最小の二原子分子であり、容易に細胞膜を透過することもできると共に、高い拡散性を有しています。水素はヒドロキシルラジカルと反応し、ヒドロキシルラジカルを水分子へ変換します (H2 + 2・OH → 2H2O)。このような水素の特性によって、医薬品の創薬の4つのハードルを越えることができます(図2)。
(3)水素とヒドロキシルラジカルの反応生成物は水で、余剰の水素は拡散により脳内から排出される
図2 現代創薬のハードルを超える水素による『スマート・メディスン』
脳梗塞の後遺症には急性期と慢性期があります。
急性期とは発症直後から数週間程度までの時期で、脳の損傷が進行する可能性があるため、命を守り損傷の拡大を防ぐ治療が中心となります。
慢性期とは発症から数か月以降の時期で、病状は比較的安定しますが、麻痺や言語障害などの後遺症が残ることがあります。
ここでは、急性期と慢性期の脳梗塞に対する低濃度水素吸入について紹介します。
中国における200人の急性脳梗塞の患者を対象とした臨床研究では、水素吸入群(水素濃度3%、1日1時間を2回、2週間)と標準治療群(エダラボン30mg)を1:1の無作為の割り当てで双方のデータを解析した結果、「神経学的改善」「MRIによる梗塞部位の重症度」「リハビリ時の日常生活動作」でエダラボンよりも優位に改善したことが示されています(Trop J Pharm Res, March 2022; 21(3): 666)。この臨床研究は、低濃度水素吸入が急性脳梗塞の治療でも有効であることを示唆しています。
MiZ株式会社は、日本脳卒中学会学術集会において、水素ガス吸入を用いた慢性期脳梗塞後遺症に関する症例について報告しました。
同社は、医療機関の医師の協力のもと、脳梗塞発症から1年以上経過した患者1名と、8年以上経過した患者1名の計2名を対象に、MiZ株式会社の水素ガス吸入装置(水素濃度6.0~7.5%)を用いた水素吸入を実施しました。その結果、身体の疼痛、ふらつき、しびれなどの症状について一定の改善が認められました。
これらの結果から、低濃度水素吸入は脳梗塞の急性期のみならず、慢性期においても有効であることが示唆されました。
医療の現場において安全管理は最優先事項であり、医師を含む医療従事者には厳格な安全管理が求められます。また、水素吸入器の製造業者や販売業者においても、製品の危険性を知りながらそれに目をつぶることは、許されることではありません。しかし現状、安全性の検証が不十分なまま、人体内水素爆発のリスクを有する「高濃度水素吸入器」が、医療の現場や一般家庭に導入されている実態があります。
水素は極めて燃焼性の高いガスであり、空気中の濃度が10%を超えると爆発する特性を持ちます。水素と酸素の比率が2:1(水素約67%)の混合ガスや純度100%の水素は、静電気等の微弱なエネルギーであっても爆発を引き起こす危険性があります。
消費者庁には、こうした高濃度水素吸入器の単独使用に起因する重大事故が多数報告されています。学術論文においても、吸入中の静電気等による引火から、以下のような人体内水素爆発事故の事例が紹介されています。
これらの事故では、救命救急搬送に至った事例も報告されています。しかし、事故が発生した高濃度水素吸入器については、その情報が十分に共有されていないため、医療従事者に危険性が認識されないまま、同様の事故が再発するおそれがあります。水素医療の健全な普及のためには、科学的根拠に基づく安全設計と、安全性に対する真摯な姿勢が重要です。
『スマート・メディスン』:低濃度水素療法のすすめ
MiZ株式会社は、複数の学術論文を通じて、低濃度の水素であれば爆発することはなく、生体に対しても充分な効果を示すことを示してきました。高濃度であることは高い効果に結び付き、低濃度であることは低い効果に結び付くというイメージが一般にはありますが、低濃度水素であっても充分な効果を示し得ることは、化学反応の理論計算によって説明することが可能です。
水素とヒドロキシルラジカルの化学反応は水分子を生成しますが、化学反応は分子同士の衝突によって開始します (H2 + 2・OH → 2H2O)。したがって「1分子のヒドロキシルラジカルに対してどの程度の分子数の水素が吸入機から供給されているか」を知ることが、水素による効果の程度を予測する指標となり得ます。
例えば、水素濃度を爆発濃度未満(10%以下)に希釈した水素発生量が300ml/分の水素ガス吸入器を想定して、理想気体の状態方程式(n=PV/RT)とアボガドロ数 (1mol=6.02 x 10の23乗個) を用いて分子数を計算すると、1分間あたりに発生する水素の分子数は、室温25℃で7.4 x 10の21乗個(74垓(がい)個:7,400,000,000,000,000,000,000個)という膨大な数になることが解ります。
一方、細胞内で発生するヒドロキシルラジカルの分子数は、ヒドロキシルラジカルの前駆体である過酸化水素の既知の細胞内濃度から、健康な細胞でおよそ600個と試算することができます(全過酸化水素分子数の1%と仮定)。ヒトの細胞は全身で約37億個と報告されていることから、身体全体では2兆2千2百億個のヒドロキシルラジカルが発生していることになります。
そうすると、単純計算では、1分子のヒドロキシルラジカルに対し33億個の水素分子を衝突させることができることになります。
概算ではあるものの、分子数の視点から見ると、例え低濃度の水素ガスであっても、細胞内で発生するヒドロキシルラジカルに対して圧倒的多数の水素分子を体内に供給し得ることが理解できます。低濃度水素であっても改善効果を奏することは、上述の急性脳卒中の臨床研究や慢性期脳梗塞後遺症の症例報告を含め、多くの学術論文からサポートされます。したがって、水素爆発という無駄なリスクを負ってまで、高濃度・高発生量の水素吸入器を使用する必要はありません。呼吸をして酸素を消費している限り、ヒドロキシルラジカルは細胞内で常に発生するため、低濃度の水素をできるだけ頻繁に、できるだけ長時間吸入することが重要です。
注1:MiZ株式会社が取得した神経系疾患・脳神経疾患関連の特許
・心的外傷後ストレス障害(PTSD)改善(権利化)
2024年3月7日 日本脳卒中学会学術集会 STROKE 2024(パシフィコ横浜ノース)