株式会社Space Cubics、JAXAと共同検討したNew Space向けハイエンドコンピュータ「SC-OBC Module V1」を発表
高度なオンボード処理と高い信頼性を両立し、New Space時代の多様なミッションを支援
 
SC-OBC Module V1
宇宙をはじめとする過酷な環境下で動作する高信頼コンピュータを開発するJAXAスタートアップである株式会社Space Cubics(本社:北海道札幌市、代表取締役:荘司 靖、以下「当社」)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同検討結果をもとにNew Space向けのハイエンドオンボードコンピュータ(OBC)「SC-OBC Module V1」を発表しました。
本製品は、AMD社の最新鋭デバイス「Versal Adaptive SoC」をメインプロセッサに採用し、New Space時代の多様なミッションを支える宇宙機に求められる高度なオンボード処理能力と、過酷な宇宙環境で動作するための信頼性を両立させた宇宙用コンピュータモジュールです。
 
近年の宇宙ミッションは、搭載されるセンサーの高性能化に伴い、OBCが処理すべきデータ量が飛躍的に増加しています。一方で、衛星と地上間の通信帯域の制約から、軌道上でリアルタイムにデータを処理する「エッジ処理」の重要性が高まっています。SC-OBC Module V1は、こうした課題に対応するため、CPU(スカラ処理)、FPGA(ハードウェアアクセラレーション)、AI Engine(ベクトル処理)を統合したヘテロジニアスプラットフォームであるVersal Adaptive SoCを採用しました。これにより、光学センサーや合成開口レーダー(SAR)、LiDARなどから得られる大容量データの高速入力、ベクトル演算を伴うエッジ処理、大容量ストレージへの記録といった一連の処理を効率的に実行できます。
 
SC-OBC Module V1は、2026年春の正式発売を予定しています。
 
なお、本コンピュータモジュールは、月面資源開発に取り組む宇宙スタートアップ、株式会社ispaceが2028年に打ち上げを予定している月ミッションに向けて開発を進めている、国産次世代型の月着陸船(シリーズ3ランダー)に採用される予定です。
 
正式発売に先立ち、2025年11月25日から北海道・札幌市で開催される「第69回 宇宙科学技術連合講演会」にて、開発中のSC-OBC Module V1を展示します。(ブース番号: C-22)
ブロック図
Block Diagram
SC-OBC Module V1の主な特徴
高性能
FPGAと AI Engineにより、高負荷な画像処理やAI推論を高速に実行可能です。Cortex-A72上で動作する Linuxは、マルチコアによる高い処理性能と豊富なオープンソース資産を活用し、計算集約型アプリケーションを支えます。OpenCVや各種機械学習フレームワークを利用することで、複雑なアルゴリズムを既存ライブラリを使って迅速に実装できる点も大きな強みです。
高信頼性
Lock-Stepモードで動作する Arm Cortex-R5FコアとZephyr RTOSが、姿勢制御や電源管理といったリアルタイム性と機能安全が求められる処理を確実に実行します。
また、メインプロセッサの Versalとは別に、Single Event Upset(SEU)耐性の高い FlashベースFPGA「Microchip IGLOO2」を Safety Processor として搭載しています。このプロセッサは、三重冗長化(TMR)されたロジックで構築され、Versalのヘルスモニタリング、電源のパワーサイクル制御、温度・電圧・電流の監視を行い、システムの異常を早期に検知し、恒久的な故障を回避します。
柔軟性
コンピュータとして必須となる最小限の機能をモジュールに集積しているので、ミッション毎に異なるインターフェースはキャリアボード上に柔軟に実装でき、ソフトウェア資産の再利用も容易になります。また、信頼性試験済みのフライトモデルに加え、開発コストを抑えるための開発用モデルを用意。ソフトウェアの互換性を維持し、ユーザーの開発効率向上を支援します。
ターゲットとなる宇宙機・ミッション
地球観測衛星 / リモートセンシング衛星
高分解能画像や SAR(合成開口レーダー)データをオンボードで処理し、通信量削減やリアルタイム解析を実現します。
探査機(惑星探査・月探査)
遠距離通信の限られた帯域環境において、探査機内でデータを事前処理し、必要な情報だけを地球に送信することが可能です。
 
SC-OBC Module V1のより詳細な仕様については、SC-OBC Module V1 製品情報を参照してください。
株式会社ispace 代表取締役CEO & Founder 袴田武史氏のコメント
「株式会社ispaceは、この度のSpace Cubics社によるNew Space向けのハイエンドオンボードコンピュータ『SC-OBC Module V1』の発表を心より歓迎いたします。ispaceのミッション1、ミッション2の開発でも重要な役割を担っていただいたSpace Cubics社が、New Space時代のニーズに応える新製品をJAXAとの共同検討結果をもとに発表されたことを大変嬉しく思います。
 
『SC-OBC Module V1』は、高度処理能力と極めて高い信頼性を両立しています。これは、大量のセンサーデータをリアルタイムに処理する「エッジ処理」が成功の鍵を握る、当社が今後予定している月ミッションの基幹コンポーネントとなる予定です。

ispaceは、この先進的な宇宙用コンピュータが持つ堅牢性、柔軟性、そして高い処理能力を高く評価しており、今後、Space Cubics社との連携をさらに強化し、宇宙開発の新たなステージを共に切り拓いていくことを楽しみにしています。」
株式会社Space Cubicsについて
株式会社Space Cubicsは2018年に創業したJAXAスタートアップです。宇宙空間という過酷な環境で動作する人工衛星や宇宙機向けに、高信頼のコンピュータおよびアビオニクスを設計・開発しています。手に届きやすい価格でありながら高い信頼性を備えた宇宙用コンピュータを提供することで、宇宙機開発コストの削減と宇宙開発への参入障壁の低減に取り組んでおり、これまでに人工衛星、宇宙探査機、宇宙ロボットなど、さまざまな宇宙機向けのコンピュータを提供してきました。
 
高価なフル放射線耐性部品のみに頼るのではなく、多数の打ち上げと軌道上運用で培ってきた設計技術やノウハウを活用することで、システム全体のコストを抑えつつ堅牢なアビオニクスを実現している点が特徴です。こうしたアプローチにより、スタートアップから大企業、研究機関に至るまで、アビオニクスコストを抑えながら、より野心的な宇宙ミッションに取り組むことが可能になります。
 
「誰もが月に行ける時代」をつくることをミッションとして、Space Cubicsはこれからも高信頼の宇宙用コンピュータの開発と提供を続けていきます。
【会社概要】
会社名:株式会社Space Cubics
設立:2018年
所在地:北海道札幌市中央区南3条東2丁目1
代表者:代表取締役 荘司 靖
事業内容:宇宙用コンピュータの開発・製造・販売 等
URL:https://spacecubics.com/
【お問い合わせ先】
株式会社Space Cubics 広報担当:森島
E-mail:marketing@spacecubics.com
Tel:050-7112-6213
【関連リンク】
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