| 東京都中古マンション市場に見られる構造変化 | ||||||||||||||
| ―価格帯別成約動向と都心3区の二極化― | ||||||||||||||
| 以前も取り上げたように、東京都の中古マンション市場では、2024年以降、価格帯によって明確な構造変化が見られるようになっています。これまで一律に「高値圏」として扱われていた東京都心部の中古市場ですが、実際には価格レンジごとに需要の層や動き方が大きく分かれ始めています。背景には、金利環境の変化、建築費の高騰、そして実需と投資の住み分けの進行といった複数の要因が複雑に絡み合っています。 | ||||||||||||||
| 1億~2億円帯の一般化と実需シフト | ||||||||||||||
| まず、1億~2億円の価格帯です。このゾーンは、いわゆる高給与層、すなわち年収1,500万円前後以上の共働き世帯や専門職層を中心とした実需によって支えられています。新築価格の高騰により、都心部では新築でこの価格帯に収まる物件が少なくなっており、「新築には手が届かないが、築浅の中古であれば可能」という層が中古市場に流入しているのが実情です。金利上昇局面においてもこの層は比較的金利感応度が低く、自己資金比率も高いため、成約件数は安定して推移しています。 | ||||||||||||||
| グラフ1:東京都及び都心3区:1億円以上2億円未満の中古マンションの成約件数 | ||||||||||||||
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| 特に東京都全体で見ると、1億~2億円帯の取引はなお増加傾向にあり、この価格帯がもはや「特別な高級物件」ではなく、東京の中上位層にとっての標準的な価格帯へとシフトしつつあることを示しています。 | ||||||||||||||
| 一方で、同じ1億~2億円帯でも都心3区(千代田区・中央区・港区)の動きには変化が出ています。データを見ると、都心3区では2025年3月をピークに成約件数が横ばい傾向となっており、勢いがやや落ち着きを見せています。これは需給のバランスが一服したことに加え、周辺区(品川区・渋谷区・文京区・目黒区など)で同価格帯の良質な中古マンションが増えていることが影響しています。いわば「1億~2億円の中古マンション」が都心3区の専売特許ではなくなり、周辺エリアにも裾野が広がっていると考えられます。 | ||||||||||||||
| 2億~5億円帯に見える価格と品質の乖離 | ||||||||||||||
| グラフ2:東京都及び都心3区:2億円以上5億円未満の中古マンションの成約件数 | ||||||||||||||
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| 次に、2億~5億円の価格帯です。ここは2023年頃までは都心部の中核的な取引ゾーンであり、富裕層・企業経営者層・外資系エグゼクティブ層などによって支えられていました。 | ||||||||||||||
| しかし、2024年後半から急激な成約件数の伸びが見られましたが、特に2025年春以降は明確な停滞が見られます。 | ||||||||||||||
| 東京都全体では3月をピークに横ばいとなっている一方、都心3区ではより顕著な減速が確認されます。中央区は横ばい、千代田区は緩やかに減少、港区に至っては2025年夏以降大きく減少しています。 | ||||||||||||||
| グラフ3:都心3区:2億円以上5億円未満の中古マンションの成約件数 | ||||||||||||||
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| この動きを読み解くうえで重要なのは、「価格と品質の乖離」です。近年、都心3区では地価や建築費の高騰を背景に、築年や立地に比して高額な中古物件が増加しました。つまり、例えば本来1.5億円クラスであるはずの物件が、相場上昇によって2億円を超える価格で市場に並ぶといったケースが多発しています。結果として、2億~5億円帯には「価格だけが高く、グレードが追いついていない物件」が多数混在するようになり、本来の富裕層購買層からの支持を得にくくなっています。 | ||||||||||||||
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このため、購入層の心理として「この価格ならもう少し条件の良い新築を選ぶ」「港区ではなく渋谷・目黒・世田谷を検討する」「海外に投資する」という動きが広がり、取引件数の減少につながっています。 |
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| 5億円超市場が示す富裕層の新たな購買動機 | ||||||||||||||
| 一方、同じ高価格帯でも5億円以上の市場は異なる動きを見せています。このレンジはもはや「超富裕層市場」と呼べる領域であり、成約件数の多くが都心3区に集中しています。 | ||||||||||||||
| グラフ4:東京都及び都心3区:5億円以上の中古マンションの成約件数 | ||||||||||||||
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特に港区の南青山・元麻布・白金台、千代田区の番町エリア、中央区の晴海・月島の超高層タワーなどでの動きが活発です。この層の購入動機は、もはや「居住」だけではなく「実物資産としての分散保有」という側面も持ち、為替リスクヘッジやインフレ対策としての購入が目立ちます。国内富裕層に加え、円安を背景に海外からの資金流入も継続しており、金利上昇による影響はほとんど見られません。 また、5億円超の物件は供給数そのものが限られているため、価格下落圧力が働きにくく、むしろ希少性がプレミアムとして作用しています。 |
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| 成約件数を見ると、東京都全体の動きとほぼ都心3区の動きが一致しており、事実上、都心3区がこの価格帯市場を独占しているといえます。(※母数が少ない為ばらつきが大きく見えすますが、現行の水準は高い水準と言えます。) | ||||||||||||||
| 再販事業者の淘汰と高付加価値化の波 | ||||||||||||||
| さらに、再販市場(いわゆるリノベーション再販)でも明暗が分かれつつあります。2024年以降、仕入コストの上昇により、リノベーション再販事業者の採算が急速に悪化しました。特に築浅や都心立地の物件では、仕入れ価格が高すぎて利益が確保できず、撤退する事業者が増えています。一方で、限られた事業者の中には、単なる「見た目のリフォーム」ではなく、「高付加価値型リノベーション」に舵を切る動きも見られます。購入者側も、価格だけでなく「耐震性」「設計思想」「将来の資産性」といった定性的要素を重視する傾向が強まっており、市場の成熟化が進んでいます。 | ||||||||||||||
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こうした状況を総合的に見ると、東京都の中古マンション市場は「階層別の二極化」と「市場の適正化」という2つの大きな流れに収斂しているといえます。かつては「都心ならば強い」という単純な構図でしたが、今や1億~2億円の層が厚みを増す一方で、2億~5億円層が選別され、5億円超は安定成長を続けるという構造が明確化しています。 また、都心3区だけでなく、目黒区・渋谷区・文京区・品川区など、都心周辺エリアにも高額帯取引が拡大しており、都心の価格上昇が周辺区に波及し続けています。 |
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| 東京都中古市場の成熟化と二極化の行方 | ||||||||||||||
| 現場の仲介業者や金融機関の声を聴いても、2億~5億円帯の動きが最も鈍化しているという指摘は共通しています。しかしそれは「高価格帯市場全体が弱い」ということではなく、あくまで「そのゾーンの商品の質と価格が乖離している」ことが原因です。対照的に、5億円以上の超高級ゾーンでは依然として強い購買意欲が維持されています。 | ||||||||||||||
| 総じて、東京都の中古マンション市場は過熱から冷静な選別局面へと移行しています。市場は単なる価格調整ではなく、真に価値のある物件が評価される「成熟化の段階」に入ったといえるでしょう。実需層・富裕層・投資層のいずれもが、自らの購買基準をより厳格にし、相応の価値を求めるようになっています。 | ||||||||||||||
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2025年以降、東京都の中古マンション市場は引き続き堅調に推移すると見られますが、その内実は「選ばれる物件」と「そうでない物件」の格差が一層拡大すると予想されます。すなわち「価格の高止まり」ではなく「価値の二極化」が進む局面にあると言えるでしょう。 |
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| 筆者プロフィール | ||||||||||||||
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| 早稲田大学理工学部卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、 | ||||||||||||||
| 建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。また大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供する。 | ||||||||||||||
| 福嶋総研発信リンク集 | ||||||||||||||
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| ■ロボ査定 | ||||||||||||||
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| 【マンションリサーチ株式会社について】 | ||||||||||||||
| マンションリサーチ株式会社では、 不動産売却一括査定サイトを運営しており、 2011年創業以来「日本全国の中古マンションをほぼ網羅した14万棟のマンションデータ」「約3億件の不動産売出事例データ」及び「不動産売却を志向するユーザー属性の分析データ」の収集してまいりました。 当社ではこれらのデータを基に集客支援・業務効率化支援及び不動産関連データ販売等を行っております。 | ||||||||||||||
| 会社名: マンションリサーチ株式会社 | ||||||||||||||
| 代表取締役社長: 山田力 | ||||||||||||||
| 所在地: 東京都千代田区神田美土代町5-2 第2日成ビル5階 | ||||||||||||||
| 設立年月日: 2011年4月 | ||||||||||||||
| 資本金 : 1億円 | ||||||||||||||
都心3区中古マンション市場の最新動向―「価値の二極化と成熟化の波」
マンションリサーチ株式会社 | 2025年11月14日 19:03
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